新しい有機半導体の開発に向けて
東京都立産業技術研究センター(都産技研)と国立大学法人東京科学大学(科学大)が共同で、注目すべき新型有機半導体を開発しました。この材料は、特に可視光電子デバイスにおいて、電子と正孔の両方の輸送が可能なアンバイポーラ型でありながら、大気暴露後でも優れた特性を保つことができます。これにより、光電子デバイスの安定性や設計の自由度が大きく向上することが期待されています。
開発の背景
従来の有機半導体材料は、合成が複雑であったり、大気にさらされると特性が劣化するという課題を抱えていました。特に、電子・正孔輸送を両立させるワイドバンドギャップの材料は、実用化が難しいとされており、研究者たちはその解決に奔走していました。
開発のポイント
この新たに開発された有機半導体は、市販の原料からわずか3ステップで高い収率(約66%)で合成可能です。また、HOMO準位が−5.6 eV、LUMO準位が−3.0 eVという特性を持ち、バンドギャップは2.6 eVとなっています。これにより、均一な非晶質膜を形成することができ、デバイスへの応用が可能になります。興味深いことに、この非晶質膜は気温79℃でのガラス転移温度を持ち、大気暴露後でもほぼトラップフリーの電荷輸送を12時間以上維持することができます。
論文と特許について
この研究成果は、『ACS Materials Letters』に掲載され、2025年5月12日にはオンライン版が発行されました。論文のタイトルは「An Ambipolar Alkynylborane Compound with Nearly Trap-Free Charge-Carrier Transport under Ambient Air Conditions」で、特定の号のSupplementary Coverにも採用されています。この業績を支えた著者には、都産技研の三柴健太郎氏(責任著者)、永田晃基氏、科学大の田中裕也氏、飯野裕明氏が名を連ねています。
関連する特許は特許第7372652号で、研究はJSPS科研費JP22K05074の助成を受けたものです。
未来の可能性
都産技研では、この新型有機半導体の製品化に向けた取り組みを進めています。これに際して、共同研究・開発を行っていただける企業を募集中です。興味のある方は、ぜひお問い合わせいただきたく思います。
新しい有機半導体の開発は、光電子デバイスの技術革新にとって大きな一歩となるでしょう。この成果が実用化され、多くの人々の生活に役立つ日が待ち遠しいですね。