ポジトロニウムの回折現象を初観測
東京理科大学の研究チームが画期的な成果を挙げました。ポジトロニウムという中性粒子の回折現象を世界で初めて成功裏に観測したのです。ポジトロニウムは、電子とその反粒子である陽電子が結びついて作られる中性の粒子で、特に水素原子に似た性質を持ちますが、質量は水素の1000分の1に相当します。この新たな発見により、ポジトロニウムを利用した結晶構造の解析や基礎物理学の進展が期待されます。
研究の背景
量子力学が誕生してから100年。この記念すべき年に、東京理科大学の長嶋泰之教授や永田祐吾准教授、三上力久氏を含む研究グループは、ポジトロニウムのビームを用いてグラフェン薄膜に入射し、その回折現象を観測しました。この研究は、高品質なポジトロニウムビームを使用し、ポジトロニウムの波動性と量子干渉を実証するもので、多くの貢献が期待されます。
ポジトロニウムの特性
ポジトロニウムの寿命は非常に短く、約125ピコ秒から142ナノ秒といった範囲にあります。この短い時間内でポジトロニウムは自己消滅し、ガンマ線を放出します。そのため、ポジトロニウムを用いた実験はこれまでほとんど行われていませんでしたが、今回の成果により新たな研究の可能性が広がりました。
研究の方法
今回の実験では、ポジトロニウムビームを2.3keVおよび3.3keVのエネルギーに設定し、2原子層のグラフェン薄膜に入射させました。このグラフェン薄膜は非常に強靭で薄い炭素で構成され、電子ビームの回折を利用することで、ポジトロニウムの回折現象を観測することが可能になりました。
初めは、ポジトロニウムに電子をもう1つ束縛する「ポジトロニウム負イオン」を生成し、電場によって加速後、レーザー光で電子を取り除く方法でポジトロニウムビームを作りました。この技術は独自のものであり、他の研究機関では容易に再現できないものです。実験には2年を要しましたが、ついにポジトロニウムがグラフェン薄膜で回折する証拠を捉えました。
結果とその意義
観測されたデータには、ポジトロニウムの回折を示す小さなピークが現れました。この結果は、ポジトロニウムがグラフェン原子で干渉を起こし、量子干渉が観測されたことを示しています。ポジトロニウムは、X線や電子と同様に、結晶構造の解析に使用できる可能性が示されました。特に、表面すれすれで入射させることで、試料に侵入することなく、表面第1層の結晶構造を解析する方法が期待されています。
さらに、今回の成果はポジトロニウムの波動関数を基にした重力測定への応用可能性も示唆しています。これにより、ポジトロニウムを活用した新たな基礎研究が進むことで、さらなる物理学の解明が期待されます。
未来への可能性
ポジトロニウムの量子干渉を実証した本研究は、基礎物理学のさらなる発展への新たな一歩となります。今後はポジトロニウムの干渉計を利用して、その運動に重力がどのように影響を与えるのかを観測することが目指されています。これにより、量子力学と重力の関係についての理解がより深化することでしょう。
この研究は、日本学術振興会の助成を受けて実施されました。今後の研究成果にも期待が寄せられます。