IBM量子コンピュータが拓く化学精度計算の新境地
量子コンピュータによる革新
東京都渋谷区に本社を構えるH.I.Councilが、IBMの最新量子コンピュータを使用して、窒素固定酵素の中心成分であるFeMoCo分子の108量子ビット規模の計算を世界で初めて実現しました。この偉業は、古くから「キラーアプリケーション」としての地位を目指していたFeMoCoの化学精度計算における大きな一歩となるため、その影響は農薬や肥料の新しい触媒設計に及ぶことが期待されています。
研究の背景とその重要性
FeMoCo(鉄モリブデン補因子)は、ナイトロゲナーゼと呼ばれる酵素の活性中心であり、その正確な電子構造を理解することは、農業分野における新たな技術を生み出す上で不可欠です。2017年には、FeMoCoの電子構造計算に必要な量子ビット数が108と推定され、以降、量子コンピュータ技術の進展が注目されてきました。しかし、NISQ量子コンピュータのノイズの影響により、FeMoCoの大規模計算はこれまで残された課題の一つでした。
本研究の主要成果
H.I.Councilの研究者たちは、IBMのibm_pittsburgh(Heron r2、156量子ビット)を用いて、さまざまな量子ビットスケールでFeMoCoの電子構造計算を実施しました。以下はその成果です:
1. 世界初の108量子ビット規模計算
位相なし補助場量子モンテカルロ法(ph-AFQMC)を活用し、±0.67mHaの統計誤差を達成、これまでの同規模計算では達成困難だった精度に到達しました。今後は系統誤差を改善し、さらなる化学精度の達成が求められています。
2. 「コヒーレンス壁」の明確化
複数のスケールでの空間相関測定によって、108量子ビット規模での相関信号の上限(r ≈ 0.03)を実証し、これを「コヒーレンス壁」と名付けました。これは、量子コンピュータの定量的限界を測る重要な成果といえるでしょう。
3. 古典手法との融合
DMRG(動的多体法)を含む古典的計算手法と組み合わせた結果、48量子ビット系において化学精度を達成しました。この結果は、量子計算が唯一の解法として認識されていた問題に対して、新たな解法の道を示しています。
4. ハードウェア改善への提案
量子技術の向上に向けた3つの具体的な方策を提案。これにより、次世代の量子ハードウェアの発展に寄与する期待が高まります。
今後の展望
H.I.Councilは、この研究結果をもとに、FeMoCoの反応中間体に関するさらなる化学精度計算を進め、生物学的窒素固定のメカニズムを分子的に解明するとともに、農業における新しい触媒設計へと繋げていく計画を進行中です。これにより、持続可能な農業技術の発展に寄与することを目指しています。
研究成果の情報
本研究の詳細は、公開された論文(ChemRxiv、Zenodo)などで確認でき、関連技術の特許出願も完了しています。新興ディープテック企業のH.I.Councilは、量子コンピュータの発展に寄与することを目指し、今後も研究を続けていくことを宣言しています。