香りの潜在的な好みを脳活動から読み解く
香りは、私たちの生活に深く根付いている要素の一つであり、日常の中で使用する洗剤、柔軟剤、香水など、さまざまな製品に応用されています。しかし、自分の嗜好に合う香りを選ぶ際には、実際に何度か使用してみて初めてわかるという難しさがあります。このような背景を受けて、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)とライオン株式会社が共同で行った研究が注目を集めています。
研究の背景
購買行動において自分自身の価値観や好みを判断することは不可欠ですが、特に香り製品の場合、その選択は簡単ではありません。主観的な嗜好が必ずしも明確に表れるわけではなく、香りを初めて嗅いだ時点での脳の反応がどのように潜在的な好みに影響を与えているのか探ることが求められています。これまでの先行研究では、視覚や聴覚から脳活動を分析し、選択の予測を行う試みがあり、脳の反応には潜在的な情報が蓄積されていることが示唆されてきました。
本成果の概要
この研究は、実験参加者に未知の3種類の柔軟剤の香りを嗅がせ、その際の脳活動を計測することから始まります。まず、参加者25名が実験初日に機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を使用してその香りを嗅ぎながら、好みを評価しました。その後、2週間の間に各柔軟剤を自宅で使用し、最も気に入った香りを選ぶというプロセスが行われました。
興味深い結果が得られました。脳活動に基づく柔軟剤の選択予測は約60%の精度を達成しましたが、主観的な評価による予測は約50%であり、偶然に選んだ場合と変わらない結果でした。このことから、脳活動は潜在的な嗜好を反映していることが明らかになりました。
実験の方法
研究チームは、脳活動データを使用した予測モデルを構築し、参加者の個別のデータに基づくのではなく、集団全体へ適用可能なモデルを作成しました。これにより、個々のばらつきを抑えながら、より信頼性の高い予測を実現することができました。
今後の展望
今回の成果は、香りに対する潜在的な好みについての理解を深める重要なステップです。今後は、60%の予測精度を向上させることで、香りを基にした製品開発において、より客観的で信頼できる指標が導入されることが期待されています。そして、脳の情報処理メカニズムをもとにした新しい評価方法が確立されれば、個々の嗜好に応じた香りを選ぶためのより良い手助けとなることでしょう。
この革新的な研究は、2025年3月7日に国際科学雑誌「NeuroImage」に発表され、今後の香りビジネスにおける大きな転換点になる可能性があります。今後の研究が、香りに関する新たな指標を生み出すことを期待したいところです。