日立とJR東日本、AIで鉄道運行の安定性向上
日立製作所とJR東日本は、2025年9月から首都圏の鉄道運行管理においてAIエージェントを活用した共同検証を実施することに合意しました。この取り組みでは、AI技術を使って鉄道の運行効率を改善し、輸送の安定性を高めることを目指しています。
背景と目的
首都圏の在来線は、高度に複雑に構築された東京圏輸送管理システム(ATOS)によって運行されています。このシステムは、多くの機器が相互に連携して稼働しているため、万が一トラブルが発生する際には、高度な専門知識を持つ指令員が迅速に対応する必要があります。そのため、故障の特定や復旧作業には多くの時間がかかり、業務の効率が求められています。
さらに、近年の労働人口の減少により、指令員の不足が懸念されており、AIを活用してより少ない人数で安定した輸送を実現する必要があります。こうした背景から、日立とJR東日本はDX(デジタルトランスフォーメーション)を通じて業務の変革を進め、鉄道運行の安全性と持続可能性向上を図ることにしました。
共同検証の具体的な内容
この共同検証では、日立が蓄積したOT(制御・運用技術)ナレッジをデータに基づいて活用し、JR東日本のシステム仕様書や運用ノウハウなど両社の知識資産を結集します。そして、これをもとに鉄道運行管理に特化した大規模言語モデル(LLM)を構築します。
加えて、熟練者の思考過程を再現するための故障対応シナリオに基づくAIエージェントを開発します。このAIエージェントは、故障箇所の特定や対応方針の提案を自動的に行い、指令員の判断を支援する役割を果たします。今回の検証は、鉄道運行管理システムに生成AIを初めて適用する試みとなります。
具体的な検証手法
検証においては、ATOSにおいて実際にある設備に障害が発生した状況を想定しています。障害が生じると、その関連機器から各種アラートが発報され、指令員の監視端末に情報が集積されます。そこに現場作業員からの報告も加わり、指令員は錯綜する情報を基に原因の究明と復旧方法を探ります。
今回の取り組みでは、AIエージェントを用いることで、指令員の業務負担を軽減し、迅速な対応が実現できるかどうかを切り口に検証を行います。これにより、従来の方法に比べて、業務が効率化されることが期待されています。
今後の展望
日立は、共同検証を通じて収集したデータを分析し、JR東日本の専門的な知見を組み込むことで、AIエージェントの精度をさらに向上させていく方針です。また、設備故障への対応時間短縮や工数削減を図り、鉄道運行のリスク低減を目指します。
これに加え、共同検証から得られる成果は、運行管理領域に留まらず、運用保守やシステム設計等の分野にも応用が検討されています。日立は、これらのノウハウを活かして、ミッションクリティカルな現場へのAIエージェント適用を進め、業務変革を支援するとともに、持続可能で調和のとれた社会の実現に貢献していきます。
まとめ
日立とJR東日本のこの共同検証は、鉄道運行管理の現場においてAI技術の導入が進む一歩として注目されます。今後の進展がどのように影響を与えるのか、ますます期待が高まります。私たちの生活基盤となる鉄道が、どのようにしてより安全で効率的なものへと進化していくのか、注視していきたいところです。