線虫の塩味好みを変える神秘のメカニズム
岡山大学と室蘭工業大学の共同研究によって、線虫(
Caenorhabditis elegans)がどのようにして塩味の好みを逆転させるのか、そのメカニズムが解明されました。本研究は2025年2月に国際科学誌『elife』に発表されたもので、神経回路がどのように環境塩濃度を記憶し、その情報に基づいて行動を変化させるのかが重点的に探求されています。
研究の背景
線虫は餌とともに育てられた環境の塩濃度を記憶し、その塩味の好みが環境の塩濃度によってどのように変化するのかは、多くの生物学者の関心を集めてきました。具体的には、高塩濃度の環境で育った線虫は塩味を好む一方、逆に低塩濃度で育てられた線虫は塩味を嫌う傾向があることが確認されています。このような現象は、塩を検知する感覚ニューロンとその後の神経シナプスの可塑性に起因するものと考えられています。
研究の方法論
研究の中心を担ったのは岡山大学の院生、弘中誠勝氏と室蘭工業大学の墨智成教授です。彼らは進化的アルゴリズムという機械学習手法を用いて線虫の神経回路モデルを生成し、以下の3つの主要なポイントを解明しました。
1. 餌とともに育てられた環境塩濃度を記憶として保存するメカニズム
2. 塩濃度記憶を基に塩嗜好性を逆転させる新タイプのシナプス可塑性
3. 好みの塩濃度に向かって線虫をナビゲートする神経回路メカニズム
具体的なシミュレーション実験では、線虫がどのようにして塩濃度の変化を検知し、好みを逆転させるかが詳細に解析されました。この結果、従来知られている長期増強や長期抑制といった興奮性のシナプス可塑性とは異なる新しいタイプのシナプス可塑性が明らかになり、感覚ニューロンと介在ニューロンの結合特性が逆転する様子が観察されました。
結果と今後の展望
この研究により、種を超えた神経回路の文脈依存型移動に関する解明が期待されます。ヒトやマウスにおける学習や記憶のメカニズムを理解するための新たな基盤となりうるでしょう。さらに、この発見は様々な生物の行動や環境適応のメカニズムに応用可能です。
今後、研究者たちはこの知見をもとに、より複雑な行動様式や記憶のメカニズムについてさらに深く探求していくでしょう。そして、岡山大学と室蘭工業大学の次なる研究成果にも大いに期待がかかります。
興味がある方は、ぜひ研究の詳細や進捗を追ってみてください。