シネマで体験する『トゥーランドット』の魅力
英国ロイヤル・オペラの名作オペラ『トゥーランドット』がシネマ版として、6月20日(金)から公開されます。本作品は、アンドレイ・セルバンによる演出で長らく多くの人々に親しまれてきました。特に1984年初演のこのプロダクションは、オペラの歴史に名を刻んでいます。初演にはプラシド・ドミンゴが名を連ね、1986年に日本での公演も記憶に残る出来事となりました。
圧倒的な演出
オペラ・キュレーターの井内美香氏によれば、セルバンの演出は『トゥーランドット』の世界観を見事に描き出しています。古代中国を思わせる美しいセットは、舞台を覆う木製のギャラリーと相まって視覚的にも圧倒されるものがあります。また、ケイト・フラットによる太極拳風の振付や照明、スモークを駆使した演出がドラマ性を一層引き立てており、井内氏は「理想的な音響的、演劇的空間を作り出している」と高く評価しています。
シネマ版では特典ともいえる関係者のインタビュー映像が収録されており、初演時の振付家であるケイト・フラットが演出について詳しく語る貴重な内容が含まれています。オペラファン必見の映像です。
豪華キャスト陣
本作の魅力は圧倒的な歌唱力を誇る実力派キャストにもあります。トゥーランドット姫を演じるソンドラ・ラドヴァノフスキーは、その圧巻の歌唱で観客を魅了しています。特に第2幕のアリアや第3幕にかけて、苦悩と愛情を見事に表現する彼女のパフォーマンスは一見の価値があります。また、カラフ役のソクジョン・ベクは「誰も寝てはならぬ」という有名なアリアを歌う際のその声の素晴らしさは印象に残るものであり、ラドヴァノフスキーに引けを取らない存在感を展示しています。
リュー役のジェマ・サマーフィールドも高い音楽性で観客を引き込んでおり、彼女たちのアンサンブルは本作に深みをもたらしています。さらに、セルバン演出では、ピン・パン・ポンの3人が重要な役割を担い、彼らの人間味あふれる演技と音楽的なパートは見逃せません。
作品の本質
井内氏が『トゥーランドット』の本質的な魅力として挙げるのは、プッチーニが生み出したリューの存在です。彼女の運命は議論を呼ぶものですが、セルバンの演出で描かれるリューの物語は、ドラマの核心を突くものであり、現代の人々に共鳴するメッセージを持っています。多くの葛藤を抱えながら生きる現代人にこそ、この作品の音楽とその舞台を体験してほしいという井内氏の想いが伝わります。
まとめ
シネマ版『トゥーランドット』は、おとぎ話のような古代中国に浸りながら、素晴らしい音楽と迫力の演出を楽しむ絶好の機会です。劇場では味わえない視点からこの名作の魅力を再発見できる作品となっています。ぜひ、実際の劇場でその壮大な世界を体験してみてください。