再生医療の新たな可能性
2025-05-26 12:15:30

廃棄血液から生まれる再生医療の新たな可能性とは

廃棄血液から生まれる再生医療の新たな可能性



北海道大学大学院医学研究院の藤村幹教授を中心とする研究チームと、株式会社RAINBOW、そして日本赤十字社北海道ブロック血液センターが、間葉系幹細胞(MSC)を効果的に増殖させるための新たな培養サプリメント「ヒト血小板溶解物(f-hPL)」の製造に成功しました。これは主に廃棄予定の白血球除去フィルター内に残った血小板と血漿成分を利用するもので、再生医療における革新をもたらすことが期待されています。

研究の背景


再生医療や細胞治療の実用化には、細胞の大量培養が不可欠です。これまで細胞培養に利用されてきたウシ胎児血清(FBS)は、免疫反応や倫理的な問題、動物由来感染症のリスクがあるため、代替手段が求められていました。しかし、ヒト由来の血小板を用いるhPLも、十分な量を確保することが難しいという課題を抱えていました。

画期的な製造法


研究チームは、血液製剤の製造に使用される白血球除去フィルターに着目し、そこから残存する血小板と血漿成分を収集・加工する方法を確立しました。この方法により、1つのフィルターから約3.5×10^10個の血小板を回収でき、回収率は平均37.1%に達しました。さらに、最適なタンパク質濃度27mg/mLで製造されたf-hPLは、市販のFBSと比較して約4倍、商用のhPLと同等以上のMSC増殖能を持つことが確認されています。

市販の細胞培養装置「Quantum」を用いることで、90%以上の細胞生存率を実現し、臨床規模での大量培養も達成されました。この成績は再生医療への応用が期待されるものであり、特に血小板の安定供給が課題となっていた分野に対し、強力な解決策となるでしょう。

研究成果の意義


今回の研究成果には以下の重要な意義があります:
1. 持続可能な再生医療資源の確保
- 血液製剤の製造過程で生成される副産物を有効活用することで、低コストかつ持続可能な細胞治療の基盤が構築されます。

2. 再生医療商品の実用化の加速
- f-hPLは、FBSや商用hPLに比べて高いMSC増殖能を持っており、高品質の臨床グレードの細胞製品を効率的に製造可能です。

3. 医療廃棄物の再資源化とSDGsへの貢献
- これまで廃棄されていた白血球除去フィルターを「再生可能資源」として利用し、資源循環の新たなモデルを構築しています。これは国連の持続可能な開発目標(SDGs)の理念と合致する重要な取り組みです。

今後の展望


今後は、GMP準拠の製造プロセスの開発や、さまざまな臨床研究への展開に向けた学術機関や企業との連携を強化していく予定です。また、この新製法を用いたhPL製品の商用化と国際的な供給体制の構築も目指し、再生医療の普及と産業化に貢献する新たなプラットフォームとしての展開が期待されます。

この取り組みは、医療技術の進歩と倫理的な観点からも非常に重要であり、今後の研究と実用化に注目が集まります。

  • ---

論文情報
  • - タイトル: Human platelet lysate produced from leukoreduction filter contents enables sufficient MSC growth
  • - 著者: 若本志乃舞、古川友子、川堀真人、秋野光明、加藤志歩、布施久恵、大槻純男、鳥本悦宏、藤村幹、紀野修一
  • - 雑誌: Stem Cell Research & Therapy
  • - 公表日: 2025年4月23日(水)
  • - DOI: 10.1186/s13287-025-04329-y


画像1

関連リンク

サードペディア百科事典: 再生医療 血小板溶解物 幹細胞

トピックス(その他)

【記事の利用について】

タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。

【リンクついて】

リンクフリーです。