海面上昇に迫る脅威と国際法の新たな挑戦と適応策
2025年3月28日、公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(以下、日本GIF)が開催したオンラインセミナー「沈む国土と浮かぶ未来—海面上昇と国際法の最前線」では、海面上昇による国土喪失の危機と、関連する国際法の現状について、当該分野の専門家である中部大学の加々美康彦教授が登壇しました。
セミナーの背景と趣旨
気候変動が進行する中で、世界は海面上昇という深刻な問題に直面しています。一部の国々は自国の大部分が水没する危機に晒されており、その場合の国際法上の取り扱いや権益の維持についての議論が必要とされています。特に、人工島がその適応策の一環として注目されていますが、国際法上ではその法的地位が不明確であり、適切な判断が求められる状況です。
セミナーでは、加々美教授が国際法、特にUNCLOS(国連海洋法条約)を基に、自然島と人工島の役割を探ります。これまでの国際法は既存の領土や海域を前提としているため、新しい状況にどのように適応していくのかを示唆する重要な議論が展開されました。
初めての試みと分類
加々美教授は最初に、国連海洋法条約(UNCLOS)の基本的な概念について説明しました。UNCLOSは1970年代に制定された、いわば「海の憲法」とも言えるもので、海洋に関する国家の権利と義務を明確に定義しています。特に、領海や排他的経済水域(EEZ)の範囲についての理解は、海面上昇に伴う新たな課題に対処する上で不可欠です。
次に、自然島と人工島に関する法律の違いについて詳しく語られ、特に自然島は「水に囲まれ、高潮時にも水面上にある陸地」と定義されていることを強調。逆に、現在の国際法上では人工島は領土として認められず、権益の維持が難しい現状にあることを理解しました。2016年の南シナ海仲裁判決も引用され、国際法の適用がどれほど難しいか示されたのです。
海面上昇への適応策
加々美教授は、海面上昇への対策としての人工島の可能性に重点を置きました。モルディブやUAEでの実例が挙げられ、海面上昇に対する新しい応答として、人工島の構築が注目されています。その際、環境負荷と生態系への影響は大きな課題であり、単に技術としての成功だけに留まらないよう注意が必要とされました。
さらに、人工島の建設が新たな国際的な合意を要するテーマであるとし、居住目的の人工島は社会全体に利益をもたらす技術として発展していくべきだという考え方が示されました。
参加者との活発な意見交換
講演後は質疑応答の時間が設けられ、参加者からは多くの鋭い質問が寄せられました。特に、フローティング・シティにおける行政サービスの問題、人工島の法律的な位置づけ、海面上昇に対する法的な対応についての議論があり、非常に多様な視点からの意見が飛び交いました。
セミナーのアンケート結果からも、人工島の建設や領海基線の固定、国際法の枠組みの見直しへの関心の高さが浮き彫りになり、多くの参加者がこの重要なテーマに対して深い関心と興味を持っていることがわかりました。
まとめ
海面上昇という脅威が迫る中での国際法の挑戦は、単に法律の問題にとどまらず、私たちの未来に直結する重要なテーマです。加々美教授の話からは、国際法の柔軟性や新しい解釈が求められること、そしてそのための国際的な議論の必要性が改めて確認されました。将来的に、国際法がどのように進化し、私たちが直面する課題に応えていくのか、多くの人々が見守っています。