日立が推進するAI創薬の新基盤
最近、日立製作所が発表した「秘匿AI基盤」は、医薬品開発の現場に革新をもたらす技術として注目を集めています。この基盤は、AIを活用した創薬のオープンイノベーションを加速させることを目的としており、株式会社MOLCUREとの協創を通じて実現されます。
秘匿AI基盤の概要
秘匿AI基盤は、データやAIモデルを安全に連携させるための技術であり、特に創薬分野における機密性の高いデータを互いに公開することなく扱える点が特徴です。これは、日立が誇る秘匿情報管理技術を利用し、高度な暗号化によってデータの流出リスクを最小限に抑えつつ、必要な情報を安全に利用することを実現しています。
この技術の主なターゲットは、製薬企業やアカデミアなどであり、彼らが保有する機密データとAI創薬スタートアップのモデルが、自然に連携することを可能にします。具体的には、データを暗号化したままでの計算処理や検索を行うことができる「検索可能暗号化技術」と、安全な環境内でデータを処理する「TEE(Trusted Execution Environment)」を組み合わせています。
創薬業界への影響
近年、医薬品開発では、研究開発費の高騰や成功率の低下、開発期間の長期化といった課題に直面しています。AIを活用した創薬(AI創薬)は、これらの問題を解決する有力な手段として期待されており、2022年には約18億米ドルだった市場規模が、2031年には193億5000万米ドルに達すると予測されています。
しかし、現状ではデータを安全に共有することが難しく、厳格な秘密保持契約を結んでマスキングする必要があったり、データの取り扱いが煩雑であったりするため、AIの学習精度が低下するというジレンマがあります。日立の秘匿AI基盤は、こうした課題を解決するために設計されています。この基盤は、データの秘匿性を保ちながら、高度なAI学習を行える環境を提供することにより、企業や研究機関の協力を促進します。
日立は、2026年度からこの秘匿AI基盤を使用した「オープンイノベーション創薬基盤サービス」の提供を目指し、具体的な検討を進めています。MOLCUREが強みを持つ抗体分野を立ち上げとして、将来的には核酸やペプチドなど、様々な分野への展開も視野に入れています。
協働の可能性
この基盤の実用化には、製薬企業や医薬品開発業務受託機関、バイオテック企業、アカデミアが参加を募っており、オープンイノベーションの強力な推進力となっています。さらに、日立は本サービスを通じて技術開発や新規事業の創出を目指すコンソーシアム型の枠組みを模索しています。これにより、異なる領域からの知見を持ち寄り、より効率的な創薬プロセスを構築していくことが期待されます。
また、日立が注力している「Lumada 3.0」というデジタルプラットフォームも、この秘匿AI基盤を支える一環として重要な役割を果たします。Lumadaは、AI技術を駆使してお客様のデータから価値を創出し、デジタル革新を加速するための総称であり、この技術が医薬分野の発展を後押ししています。
今後に向けた展望
日立は、2026年4月21日から23日に東京ビッグサイトで開催される「ファーマIT&デジタルヘルスエキスポ2026」において、この秘匿AI基盤やその活用例を詳しく紹介する予定です。このイベントにより、より多くの企業や研究機関がこの技術に関心を寄せ、参加を検討することが期待されています。
秘匿AI基盤を開発することにより、日立は医薬品開発の現場を大きく変革し、製薬企業やアカデミア、スタートアップがより強力に連携できる未来を描いています。この取り組みが、患者に革新的な医療を提供する実現へと繋がることを望んでいます。