生成AI時代における肖像権の現状と課題
2025年度に実施された特定非営利活動法人肖像パブリシティ権擁護監視機構による調査が、生成AIの急速な普及に伴う肖像権およびパブリシティ権の侵害疑義事案の実態を明らかにしました。この調査は、SNSや画像生成AIプラットフォームにおける肖像や声の無断利用がどのように広がっているのかを把握し、業界全体の対応を促すものです。
調査の背景と目的
近年、SNSを通じて個人の肖像や声が無断で利用される事例が増加しており、これがもたらす経済的損失は計り知れません。2026年4月から法務省内に設置される「肖像、声等の無断利用に関する懇談会」は、こうした状況に対し法律的な議論を進めることを目的としています。これに先立って行われた本調査は、業界内の実態を把握し、経済的損失を可視化するための重要な試みとして位置づけられています。
調査方法と対象
調査は2025年4月から2026年3月までの期間に、インターネットを通じたアンケートやヒアリングに基づいて実施されました。対象には主要SNS(TikTok、X、YouTube)や画像生成AIプラットフォーム(sea art AI、PixAI)、さらに芸能事務所や関連企業が含まれています。これにより、侵害問題の全体像を捉え、具体的な対策を模索することを目指しました。
侵害事例の実態
調査結果によると、SNS上での肖像権侵害に関する疑義事例は4万件を超え、出回った投稿の閲覧回数は約3.35億回に達しました。また、声の無断利用についても国際的な現地アカウントによる問題が浮き彫りになりました。画像生成AIプラットフォームにおいては、著名人の肖像を用いたモデルの無断作成・公開が多く見られ、これが業界の重大な課題として浮上しています。
特に、モデル自体を削除する実証実験では、特定の芸能人の肖像使用モデル20件が削除され、100%の達成率を記録しましたが、削除後にも新たなモデルが投稿される事例が続くなど、恒常的な対応が求められています。
経済的損失の試算
調査によると、SNS上での肖像権およびパブリシティ権侵害は、経済的損失を約20億円から45億円規模と試算され、業界に与える影響は無視できません。ただし、この試算はすべての侵害事例を反映しているわけではなく、実際の経済的影響はさらに大きい可能性があります。このような背景から、業界全体での対策の必要性が高まっています。
課題と今後の方向性
174社を対象としたアンケート結果では、肖像権侵害事案を把握している事務所は約28%に留まり、業界全体としての認識が不足していることが浮き彫りになりました。また、対応ガイドラインの整備が不十分で、多くの事務所が策定中の段階にあることも明らかになっています。適切な管理の下での肖像権の利用は推進されていますが、契約ルールや倫理ガイドラインの整備が急務です。
結論
生成AIの普及による肖像権とパブリシティ権の侵害問題は、今後も重要な課題として業界全体で取り組むべき事項です。本調査を通じて、継続的な実態把握の重要性と、肖像権・パブリシティ権の保護に向けた動きが加速することが期待されます。特に、声優やコンテンツクリエイターの権利保護に向けた取り組みが求められている今、新たな施策が必要とされています。調査結果を踏まえ、関連団体との連携を強化し、持続可能な業界発展に向けた環境整備を進めていくことが求められています。