企業の取締役会における性別多様性の現状
MSCIは毎年発表している「Women on Boards 進捗と今後の展望に関するレポート」の2024年版を発行しました。このレポートは、企業の取締役会における性別多様性の状況を詳細にレポートし、特にアジア太平洋地域(APAC)の動向に注目しています。
APACにおける性別多様性の進展
APAC地域のコーポレート・ガバナンスに関する専門家であるポーター・萌子氏は、APACが先進国と新興国が共存する多様な地域であることを踏まえ、性別多様性の向上が続いていると述べました。特に男性のみの取締役会の数の減少が顕著であり、2024年には香港とシンガポールにおいてその数がゼロになる見込みです。また、日本ではわずか1社の男性のみの取締役会が残ることとなっています。
さらに、調査対象に含まれるAPACの13市場のうち、11市場では女性取締役が30%を超える企業が増加しています。これらの数値は、これまでの努力が実を結んできた証拠であり、今後の進展が期待されます。
主要調査結果
2024年のレポートによれば、大型・中型株の上場企業における女性取締役の割合は27.3%に達し、前年から1.5ポイントの上昇を記録しています。30%以上を女性が占める企業は46.2%に上昇しました。特に、日本の女性取締役比率の増加(+2.5ポイント)は注目すべき成果と言えるでしょう。
しかしながら、全体の動向とは対照的に、最高財務責任者(CFO)職に女性が就く企業の割合は減少しており、これらの職における女性比率も影響を受けています。たとえば、APAC地域におけるCEOの女性比率は0.2ポイント減少し、CFOは0.8ポイント減少しました。
指名委員会の役割
指名委員会は取締役会の構成を決定するうえで非常に重要な位置を占めています。世界全体での女性委員長を持つ企業の割合は26.3%ですが、APACでは18.1%と、より低い数値です。このように、指名委員会の構成も女性取締役の比率に影響を与えるため、今後の施策が求められています。
今後の課題と展望
一方で、女性取締役の継続的な在任に関するデータも興味深いものです。3年以上女性取締役が30%以上の取締役会を持つ企業の比率はわずか13.1%であり、男性取締役が同じ条件を満たす企業は80.2%にも達します。これには、女性が複数企業で席を持つ一方、潜在的な責務の制約との関連が指摘されています。
また、女性取締役の比率と企業のリターンとの相関関係も明らかになっています。6500社以上の企業データを基にした調査では、女性取締役比率が30%を超える企業は、30%未満の企業と比較して累積リターンが18.9%高いことが示されています。これは、性別多様性が企業の成長に貢献する可能性を示唆しています。
まとめ
MSCIの2024年進捗レポートから見えるAPAC市場における性別多様性は、徐々に高まりつつあるものの、依然として多くの課題があります。指名委員会の充実やCFO職における女性数の改善が今後の重要なテーマとなるでしょう。レポートを通じて、企業のガバナンスにおける性別多様性の促進についてのさらなる議論が期待されます。