近年、北西太平洋の深海に分布する海山が注目されています。その理由は、主にコバルトリッチクラストと呼ばれる資源が存在するためです。この海山群は、レアメタルを含む金属資源の新たな供給源として期待されていますが、この地域の生態系がどのように繋がっているのかは、十分に理解されていないのが現状です。
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」と記します)の研究チームは、北西太平洋にある18の海山を対象に、浮遊幼生の分散シミュレーションを行い、生態系の連結性を可視化しました。このシミュレーションによって、海山間の生態系の重要性を明らかにし、効果的な保全区域の設計に役立つ知見が得られました。
研究背景
海山は、高い海底地形であり、その頂上や斜面に広がるコバルトリッチクラストが、将来的な採掘対象として期待されています。これまで、深海での商業規模の採掘は行われておらず、その環境への影響は解明されていません。しかし、これらの海山に生息する多くの海洋生物が、浮遊幼生として水流に乗り、他の海山に移動することが生態的・遺伝的な連結性を生み出していると考えられています。
これまでの研究では、限られた海山のみを対象に遺伝子解析が行われていましたが、深海の生態系の全容を把握するのは難しい課題でした。そこで、産総研の研究チームは、海流モデルを用いて浮遊幼生の動きをシミュレーションし、海山間の連結性を詳しく分析しました。
シミュレーションの手法
今回の研究では、対象となる海域を水平方向に20万以上のセルで解像できる高解像度の海流モデルを使用しました。浮遊幼生が各海山から放出される確率を定量化し、その結果をネットワークとして可視化しました。これにより、各海山間の連結性を評価することが可能になりました。
結果として、18の海山はすべて、他の海山と何らかの形で連結していることが判明しました。しかし、コバルトリッチクラストの探査対象から外された海山があると、東西での連結性が著しく低下することが示されたのです。さらに、探査対象から除外された海山が連結を保つための重要な経由地であるということも明らかになりました。
生態系保全への示唆
これらの知見は、環境保全の観点から非常に重要です。海山間の連結性を保護するためには、分散モデルの結果をもとに、効果的な保全区域を設計する必要があります。今後、深海での鉱物資源開発に向けた国際的な地域環境管理計画において、本研究の結果が影響を及ぼすことが期待されます。
さらに、研究チームは今後、さらに多くの海山での生物サンプルを集め、遺伝子解析の対象を増やしていく方針です。これにより、分散シミュレーションと遺伝子解析を組み合わせた学際的アプローチによる、海山間の連結性のより詳細な解明を目指します。
この研究成果は、深海の生態系の保全に向けた一歩となるでしょう。私たちの未来のために、深海の未解明な生態系を守るための取り組みが急務なのです。