鳥が歌の先生を選ぶ脳のメカニズムを解明した研究の成果
音楽や文化を学ぶ際、どの先生から学ぶかは非常に重要です。近年、早稲田大学の研究チームがキンカチョウという鳥を用いて、彼らが歌を習得する過程でどのように先生を選ぶか、その背後にある脳のメカニズムについて解明する研究を行いました。この研究では、脳の扁桃体という部分が、鳥の先生選びにどのように関与しているのかが焦点となりました。
研究の背景と目的
音楽や言語、ダンスなどは、長い練習を必要とする文化の一部であり、世代を超えて伝えられています。我々がどの先生から学ぶかは、その文化が未来にどのように残るかにも大きく影響します。しかし、我々が実際にどのようにして先生を選ぶのか、そのメカニズムについては未知な部分が多いのが現状です。特に、どのようにして文化の伝達者(先生)が選ばれるのか、その心理や脳の仕組みはまだ解明されていません。
歌鳥の一種、キンカチョウは、幼少時に大人の鳥から歌を模倣していくことが知られています。我々の研究グループは、これに着目し、彼らの歌の先生を選ぶ際の脳の働きを探求しました。
実験内容と結果
この研究では、キンカチョウの幼鳥を異なる歌を持つ2羽の成鳥と個別に対面させ、どちらの先生から歌を学ぶかを調べました。結果として、幼鳥は特定の先生から模倣をする傾向があり、その選択には、歌う時間が長い「短期的な表現」を持つ先生が選ばれやすいことが明らかになりました。
さらに、扁桃体が損傷した幼鳥は通常の幼鳥が選ぶであろう歌の先生を模倣しなくなり、選択が不安定になることが分かりました。この結果は、扁桃体が社会的欲求を抑えつつ、模倣対象を選ぶ助けになっている可能性を示唆しています。
社会的欲求の高まり
調査の過程で、扁桃体が損傷した幼鳥が、教師と接触する意欲が高まることが観察されました。この現象から、扁桃体が社会的欲求と模倣行動の関わりを制御していることが窺えます。また、正常な幼鳥の行動パターンでは、歌を聞いたときの接近行動がみられる一方で、扁桃体損傷付きの個体にはこの傾向が薄れました。
今後の研究と意義
この研究の知見は、文化を伝承するプロセスにおける心のメカニズムに対する新たな視点を提供します。加えて、扁桃体の機能に新たな役割があることを示しました。今後の研究では、さまざまな種類の歌鳥を対象に、模倣対象選択の仕組みをさらに深く探求することが期待されます。
社会において、文化を伝えるメカニズムは個人の生活を豊かにし、集団を強固にします。本研究は、文化を継承する際の社会的欲求の重要性を示しており、今後の文化分析における大きな指針となることが期待されます。
参考文献
この研究成果は、『The Journal of Neuroscience』にて2025年に発表され、魚類の行動学や脳の社会的認知に関する理解が深まることが期待されています。今後も、模倣や社会的関係を通じて文化が伝わる過程を明らかにするための研究が進められていくでしょう。