多発性硬化症患者におけるウェアラブルデータの可能性
株式会社テックドクターが国立病院機構北海道医療センターと共同で行った研究が、神経免疫学に関連する国際誌『Journal of Neuroimmunology』に掲載されました。本研究では、多発性硬化症(MS)患者におけるウェアラブルデバイスからのデータが、脳MRI指標にどのように関連しているかが探求されています。この研究の結果は、MSの病状モニタリングにおける新たな手法の開発に寄与する可能性を示唆しています。
研究の背景と概要
多発性硬化症は、中枢神経系に影響を及ぼす慢性の自己免疫疾患です。この病気は、神経における急性の症状発作や、徐々に進行する神経機能の低下が特徴です。特に脳の萎縮は、病勢の進行を示す重要な指標として捉えられています。そのため、MS患者においては、早期に疾患の活動性や神経変性を評価できる手法が求められています。
本研究では、北海道医療センターの神経内科の協力を得て、再発寛解型や進行型など異なるタイプのMS患者30名に対し、ウェアラブルデバイス(Fitbit Inspire3)を使って生理学的データを収集しました。研究では、睡眠の質を示す指標や心拍数、活動量など29項目が計測され、MRIによる脳の状態と関連付けられました。
研究成果の概要
深い睡眠の重要性
研究結果では、深い睡眠の割合がMRI指標と有意な関連をもっており、深い睡眠が多い患者ほどT2病変体積が小さいことが示されました。これは、睡眠の質がMSの病変の程度に影響を与える可能性を示唆しています。また、睡眠中の心拍変動も脳容積との関連が認められ、自律神経の状態が神経萎縮と関わっていることが浮かび上がりました。
身体活動とその影響
日中の活動量も重要な指標として挙げられます。歩数や心拍数が頚椎萎縮と相関しており、身体活動がMSの進行にどのように影響を与えるかが探られています。特に、日常の心拍数が頚椎断面積に影響を及ぼしていることが報告されています。
社会的意義と今後の展望
今回の研究は、ウェアラブルデバイスから取得したデータが多発性硬化症患者の脳や脊髄の病状に新たな洞察を与える可能性を示しています。これにより、非侵襲的かつ継続的に病態を追跡する新たな医療の道が開かれることが期待されます。今後は、さらなる大規模な研究を通じて、これらの生理指標の有効性を確認し、MSの早期発見や治療の向上に繋げていきたいと考えています。
テックドクターは、ウェアラブルデータを活用したデジタルバイオマーカーの開発に取り組んでおり、これにより患者への負担の少ない新しい医療の実現を目指しています。日常生活のデータを活かしたこの研究は、MSに限らず、他の疾患にも応用可能な画期的なアプローチとなるでしょう。
論文情報
- - 掲載誌: Journal of Neuroimmunology
- - 論文タイトル: Wearable-based physiological monitoring and brain magnetic resonance imaging metrics in multiple sclerosis: A feasibility study
- - DOI: 10.1016/j.jneuroim.2025.578819
総括
この研究は、従来の検査では見逃されがちな日常の変化を医療に結びつける重要な第一歩を述べています。新たなモニタリング方法の確立が、将来的に多発性硬化症の治療に革新をもたらすことが期待されます。