機能性タンパク質生産の新たな扉を開くTAS3i植物体
国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)の松尾幸毅主任研究員による最新の研究により、植物から機能性タンパク質を効率的に生産する新型植物体TAS3iが開発された。この研究成果は、特に再生医療や細胞培養技術のコスト削減に寄与することが期待されている。
1. 機能性タンパク質生産の課題
従来、機能性タンパク質は主に動物細胞や微生物を用いて生産され、これには高コストや混入リスクが伴う。植物を用いた生産法は、最近、その安全性と生産コストの低さから注目を集めている。しかし、植物にはウイルス等から身を守るために「RNAサイレンシング機構」と呼ばれる仕組みがあり、これが外来遺伝子の発現を抑制するため、生産効率が下がってしまう。この問題を解決するため、産総研ではRNA依存性RNAポリメラーゼ6(RDR6)という遺伝子を破壊したrdr6植物体の開発が行われたが、この植物体には成長の抑制や不稔といった問題があった。
2. TAS3経路の活用
今回の研究では、RDR6遺伝子と深く関わるTAS3というDNA配列に着目し、新たに設計した遺伝子構造をrdr6植物体に導入した。これにより、機能性タンパク質を高産量で生産しつつ、野生型植物と同じように正常に成長し種子も形成できるTAS3i植物体の作出に成功。これにより、植物単位での生産システムが実現した。
3. TAS3i植物体の特性
TAS3i植物体の最大の特長は、高い機能性タンパク質生産能力を持ちながらも、綺麗に成長し種子を形成する点にある。具体的には、これにより、一度の培養で多くのタンパク質を生産し、その後新しい世代の植物を育てることが可能となる。実際に、TAS3i植物体における緑色蛍光タンパク質(GFP)の生産実験では、非常に高い蛍光強度が観察され、その生産の効率性が確認された。これにより、必要量のタンパク質を確保するための育成作業を大きく簡略化できる。
4. ビジネスへの影響
この新技術は、医薬品や再生医療の分野での需要に直接的に影響を与える。高コストな機能性タンパク質の供給が、このTAS3i植物体によって大きく改善される可能性があるからである。特に、細胞培養や培養肉の産業において、大量に必要とされる機能性タンパク質を大幅にコスト削減した形で供給可能となる。また、研究機関や製薬業界にとっても安定供給の観点から価値が見出される。
5. 今後の展望
今後、TAS3i植物体を用いたさらなる産業用機能性タンパク質生産システムの確立が進められ、より一般的な発現プラットフォームの開発も目指される。また、RNAサイレンシング機構やmiR390-TAS3-ARF経路の分子メカニズムについても深く掘り下げていく予定で、植物によるタンパク質生産技術は今後も進化を続けていくと期待される。
この技術が実用化され、医療や食品産業などでの幅広い活用が期待される中、私たちの生活に大きな影響を与える可能性を秘めた研究として注目が集まっている。