水素吸蔵材料における負熱膨張現象の発見
私たちの生活に身近な物質は、一般的に温度が上がると膨張し、逆に温度が下がると収縮する特性を保っています。この特性は「正の熱膨張」と呼ばれ、金属やプラスチックといった多くの材料に広くみられます。しかし、この逆の現象、すなわち温度が上がることによって収縮する「負熱膨張材料」が存在することが知られています。これらの負熱膨張材料は、正の熱膨張材料と組み合わせることで、電子デバイスにおいて求められる熱膨張の制御が行えることから、特に注目されています。
東京都立大学の水口佳一准教授と渡邊雄翔大学院生、それに東京科学大学の片瀬貴義教授や北海道大学の三浦章教授らの研究チームは、遷移金属ジルコナイドであるCoZr2H3.49が特定の方向、すなわちc軸方向において負熱膨張が起こることを明らかにしました。この現象は、キュリー温度(139 K)以下の温度域でのみ観察され、電子状態の変化、つまり強磁性転移がこの負熱膨張を引き起こしています。
研究では、水素を含まないCoZr2が約6 Kの超伝導転移温度を示す一方で、CoZr2H3.49のc軸方向における負熱膨張は、かつて報告されていない新しい現象です。CoZr2は水素を吸収すると強磁性体へと変化することが知られていますが、これが負熱膨張としてどのように影響するのかについての研究は行われていませんでした。
研究の背景と意義
現代の産業界では、電子デバイスの技術進化とともに、材料の熱膨張係数の制御が重要な課題として浮上しています。特に、精密光学機器や半導体パッケージにおいては、材料の変形や異種材料間での歪みを防止することが求められています。このため、温度が上昇すると収縮する負熱膨張材料の応用が期待されているのです。
2022年に水口准教授らがCoZr2におけるc軸負熱膨張を発見し、その後、他の遷移金属の置換による同様の現象が確認されました。CoZr2は水素を良く吸収する特性があり、オープンな研究が進められてきました。特に水素吸蔵は、物質の物性の向上や変化をもたらし、新たな材料特性を生み出す可能性があります。
研究の詳細な進展
本研究では、CoZr2粉末を水素雰囲気中で加熱し、水素化粉末を合成しました。得られたCoZr2H3.49の特性を放射光X線回折測定で評価した結果、キュリー温度139 K以下でc軸方向に負熱膨張が観測されました。これは従来知られていたCoZr2の負熱膨張とは異なる機構であることが示唆され、新たな材料設計の可能性を開きました。
さらに、CoZr2H3.49の磁化率や結晶構造も精密に分析し、特定の温度範囲での強磁性転移と負熱膨張の関係が明らかになりました。これにより、新たな負熱膨張材料の開発への道が拓かれています。
まとめ
本研究は、局所的な温度範囲で発現する新しいタイプの負熱膨張材料の発見として、今後の材料科学、特に水素吸蔵を利用した新たな材料設計に大きな影響を与えるものと期待されます。また、将来的にはこれらの研究成果が、より高性能な電子デバイスに貢献し、現代産業界の進化を促す一因となることでしょう。