アバターを用いた社交不安への新たなアプローチ
一般社団法人キャリカが行った研究が、アバターを用いた自己表現に関する新しいアプローチを提示しました。この研究は、対人場面の困難を抱える社交不安のある方々に焦点を当てています。研究成果は、国際論文としても採択され、2026年9月発行予定の『Communications in Computer and Information Science』シリーズに収録されることが決まりました。
研究の背景
現在、日本における障害者の雇用状況は改善していますが、社交不安を抱える方々にとって、依然として対面のコミュニケーションは大きな壁となっています。社交不安症の特徴として、人前で話すことへの強い恐怖感があり、そのために日常生活や職場でのコミュニケーションが困難になります。こうした現状から、本人が能力を最大限に発揮しやすい環境の整備が求められています。
本研究は、従来の対面中心の支援から脱却し、アバターを介して自己表現を行う新たな方法を試みました。この研究の重要な点は、従来のように「不安軽減の効果」を測定するのではなく、自己表現を行う過程での本人の気づきに焦点を当てています。
研究の特徴
この研究には3つの独自の視点があります。
1. 実践現場での研究
本研究は、実験室ではなく、障害福祉サービスを提供している地域の事業所で行われました。参加者は、普段から利用している環境でアバターを使った自己表現を試み、自身の能力を引き出す過程において変化が記録されています。
2. 行動変容の前段階に焦点を当てる
研究では、参加者たちが自己表現を行う際の「気づき」や「準備状態」に注目しました。社交不安が緩和されたかどうかという結果だけではなく、自分の声や話し方を意識する機会を持つことが、次のステップに向けた重要な一歩であると考えられています。
3. アバターの役割
アバターは、別の存在として作用するのではなく、参加者自身の自己表現を補助する媒体として利用されました。参加者は自分のアバターを通じて、実際に自分の声で話すことで、自身の表現方法を意識することが可能となります。
研究参加者の体験
本研究には、障害福祉サービスを利用している2名の方が参加しました。彼らは社交不安を抱え、自分を表現することが難しい状況にありました。参加者はVRoid Studioを使い、自身をイメージする3Dアバターを作成し、アバターを介した自己表現セッションを実施しました。
セッションの成果
インタビューによると、アバターを利用することで「別の自分になったように感じられた」との意見が寄せられ、声の高さや話し方を調整する意識が高まったことが確認されました。特に、セッションが進むにつれて、自分の表現を改善しようとする意欲が見られるようになりました。また、将来的に試してみたい表現や他者からのフィードバックを求める気持ちも示されました。
しかし、日常生活の中での明確な変化は見られなかったことも併せて確認されています。これは、アバターによる表現が直ちに社交不安を解消するわけではないことを示しています。
未来への展望
アバターはもはや単なる娯楽ツールではなく、実際の仕事や社会参加に役立つ可能性を秘めています。企業でもアバターを用いた業務が導入されつつあり、接客の現場などでの活用が進んでいます。今後、この研究を通じて得られた知見を基に、社交不安を抱える方々の就労支援や社会参加が進むことを期待しています。
本研究が示すように、アバターによる自己表現は確かに新たな一歩であり、個々の能力を引き出す可能性があります。これにより、社交不安を抱える方々が自分の力を発揮し、社会とのつながりを深めることができる未来を描いています。