国際セミナー「気候変動適応策としての環礁国における人工島開発」
2025年11月18日、米ハワイ州ホノルルのImin International Conference Centerにおいて、「気候変動適応策としての環礁国における人工島開発」というテーマの国際セミナーが開催されました。このセミナーは、公益財団法人日本グローバル・インフラストラクチャー研究財団(日本GIF)とマーシャル諸島短期大学、法政大学の共催によるもので、気候変動に対する重要な適応策としての人工島開発の意義について幅広い議論が行われました。
セミナーの背景
気候変動はマーシャル諸島やモルディブなどの環礁国にとって、現実的な脅威です。海面上昇によって、国土の喪失が続いているこれらの国では、「住み続ける権利」が侵害される危険性が高まっています。このセミナーでは、人工島開発が国家の存続と文化的アイデンティティの保持に寄与する可能性に焦点が当てられました。
基調講演とプレゼンテーション
セミナーは、日本GIF理事長の中山幹康、CMIの教授Jennifer Seruによる挨拶で開幕しました。両者は、移住が「最後の手段」にならないようにするために人工島開発が求められていると強調しました。以下に、セミナーでの主要なプレゼンテーションのポイントをまとめます。
人民意識調査の結果
まず、佐々木大輔准教授が、「マジュロにおける人工島開発に対する市民の意識」をテーマに、モルディブとマーシャル諸島での市民意識調査を比較しました。結果として、マジュロ市民の82%が人工島開発を支持しているという高い支持率が示されました。成功の鍵は「清潔な住環境」「インフラ」「災害への安全性」だと述べています。
世代間ギャップ
次に、Jennifer Seru教授とMylast Bilimon教授によるプレゼンテーションでは、CMI学生と一般市民の意識の違いが扱われました。学生は人工島での生活に楽観的である一方、一般市民は現実的な見方を持っていることが報告されました。このギャップは、家族の義務が適応行動の制約要因になっていることが影響しているとのことです。
経済的課題
石渡幹夫特任教授が、「環礁国における適応策にかかる経済的課題」に焦点を当てました。特に、マーシャル諸島の土地のかさ上げや護岸整備のコストが国家の予算を超えていることが言及され、従来の費用対効果分析だけでは投資を経済的に正当化することが難しいとのことでした。
社会的包摂
坂本晶子事務局長は、モルディブの人工島移住における「社会的包摂」に関する研究を発表しました。「人的資本への投資」が満足度を向上させるだけでなく、高齢者の移住決定が幸福度に大きく影響することがわかりました。
パネルディスカッション
最後に、パネルディスカッションが行われ、モデレーターのNori Tarui教授が土地の所有権問題や必要な資金の問題について議論をリードしました。「住み続ける」ことが経済合理性だけでなく、文化的価値やコミュニティの維持に繋がる重要性が改めて確認されました。
このセミナーを通じて、人工島開発が環礁国の人々に「住み続けるため」の手段となることが確認されました。国際社会の支援の枠組みや法制度の整備が不可欠であり、包括的なアプローチが求められています。