研究の背景
酵母は、アルコールの醸造やパン製造に広く用いられる微生物であり、その中でも出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeが特に有名です。その一方で、担子菌に属する酵母Rhodotorula toruloidesはその特異な性質から注目されています。この酵母は、赤桃色のコロニーを形成し、細胞内に脂質を蓄積する特性を持っているため、バイオ燃料の生産への利用が期待されています。このたび、東京農業大学の研究チームはこの酵母の全ゲノム解析を行い、意外な発見をしました。
全ゲノム解析の成果
東京農業大学総合研究所の酵母多様性生物学・分類学研究室を中心に、理化学研究所バイオリソース研究センターと共同で進められたこの研究では、Rhodotorula toruloidesを含む4種11株の酵母のゲノムを解読し、染色体全長レベルの情報を得ることに成功しました。研究チームはその結果から、保存菌株における染色体の構造に変異が存在することを確認し、これが実験室での培養過程に起因するものであることを明らかにしました。
具体的な発見
この研究では、多くの菌株に共通している染色体構造が保存されている一方で、一部のR. toruloidesの菌株では染色体の転座が確認されました。これらの構造変化は、一般的には自然界では見られないものであり、実験室下で特異的に発生したことを示唆しています。この発見は、酵母の育種や物質生産における微生物資源の管理に重要な知見となります。
微生物資源管理への影響
微生物は様々な生理活性を持ち、その性質に基づいて多くの実用研究が進められています。今回の研究で明らかになった染色体構造の変異は、外見上はほとんど違いがなかったとしても、実際には育種結果に重要な影響をもたらす可能性があります。そのため、微生物資源の品質管理の観点からも、この知見は極めて重要です。
まとめ
東京農業大学と理化学研究所による革新的な研究成果は、酵母Rhodotorula toruloidesのバイオ燃料生産への応用との関連性を照らし合わせた際に、私たちの理解を深めるものです。実験室で下での染色体変異は微生物資源の管理に新たな視点を与え、今後の研究においてもますます注目されることでしょう。これらの新しい知見が、持続可能なエネルギーの開発や、食品産業における革新に繋がることが期待されます。
論文情報
この研究の詳細については、Scientific Reportsに掲載された論文"Chromosome-resolved genome assemblies of Rhodotorula toruloides reveal abnormal chromosomal evolution under artificial culture conditions"をご覧ください。著者のYuuki Kobayashi氏をはじめとする研究チームの成果は、2025年12月にオンライン公開されました。