反強磁性準結晶の存在を明らかにした新たな研究
東京理科大学の研究チームが、反強磁性準結晶の存在を実証したことで、物質科学に新たな視点が付け加えられました。この発見は、反強磁性体が通常は周期結晶に特有の現象とされていたのに対して、準結晶でも成立する可能性を示すものです。この研究は、長距離反強磁性秩序を持つ準結晶の証明として、物性物理学における新たなパラダイムシフトをもたらすと期待されています。
研究の背景と目的
準結晶は1984年に最初に発見されて以来、物理学の分野で注目され続けています。その特異な構造と性質により、周期的な配列を持たないながらも、ユニークな物性を示すことが知られています。しかし、これまでの研究では、長距離の反強磁性秩序を持つ準結晶の存在が確認されておらず、長年の疑問が残されていました。
今回の研究は、これまで議論されていた反強磁性準結晶の存在を証明することを目指しました。東京理科大学の田村教授を中心とする研究グループは、正二十面体準結晶であるAu56In28.5Eu15.5が反強磁性を示すことを明らかにしました。これにより、反強磁性体の新たな可能性が探られることになります。
研究の具体的な成果
この研究では、粉末X線解析を用いて、Au56In28.5Eu15.5の結晶構造がTsai型の正二十面体準結晶であることが確認されました。興味深いことに、6.5Kという非常に低い温度で鋭いカスプ(極大)が観察され、ネール温度以下で反強磁性転移が発生することが示唆されました。また、粉末中性子回折の結果は、ネール温度以下での磁気的なブラッグ反射が確認され、これにより反強磁性秩序が実際に存在することが証明されました。
この成果は、物性物理学において重要なブレイクスルーとされるだけでなく、スピントロニクス分野における新たな応用研究への道を拓くことが期待されます。田村教授は、「この発見は我々が知っている物質科学の枠組みを広げるものであり、今後の研究に多大な影響を与えるでしょう」と述べています。
今後の展望
この研究成果がもたらす意義は、単に新たな物質の発見にとどまらず、スピントロニクス分野などの技術においても重要な役割を果たすことが期待されています。反強磁性準結晶の特異な磁気応答は、次世代の情報処理技術の進化に寄与する可能性を秘めています。
物性物理学の新たな知見として、当該研究は2025年4月11日に国際学術誌「Nature Physics」にオンライン掲載される予定です。これにより、さらなる研究者の関心を引き、物質科学の未来に新たな風を吹き込むことでしょう。