日本人が権威主義国家のナラティブに説得されやすい理由とは
近年、日本の世論が権威主義国家から発信されるナラティブによって影響を受けやすいことが明らかになりました。この傾向は、政治的知識や権威主義的思考、陰謀論に対する信念の強さに関わらず観察されています。この意味で、日本の民主主義は独特の脆弱性を抱えることに繋がります。
権威主義国からの影響
早稲田大学の小林教授らの研究において、日本人は権威主義国家(具体的には中国やロシア)が発信するナラティブに対して、主流ナラティブよりも多くの説得を受けていることが確認されています。これは、権威主義国家が持つ非自由主義的なストーリーの方が民主主義国の主流のナラティブよりもより強力な影響力を持ち、特に新鮮さや意外性が強調されています。
研究の実験内容
研究は、オンラインでの実験を通じて行われ、3,270人の日本人成人を対象にさまざまなナラティブを提示しました。具体的には、「ロシアのウクライナ侵攻」や「香港の国家安全法」など、計12のトピックに関してナラティブを提示し、人々の態度を測定しました。それにより、ナラティブの内容による説得効果が観察されたのです。
ナラティブの相互作用
興味深いことに、民主主義的ナラティブと非自由主義的ナラティブが同時に提示されると、互いにその説得効果が打ち消しあう傾向が見られました。しかし、民主主義的ナラティブが先に提示され、その後非自由主義的ナラティブが提示されると、後者の影響がより強く残ることが分かりました。この結果は、民主主義のナラティブが広まる場面での権威主義的ナラティブの拡散のリスクを示唆しています。
マスメディアと社会の変化
昨今の日本におけるマスメディアの影響力の低下と、ストーリー仕立てのメッセージがSNSを通じて急速に広がる現状は、権威主義国のプロパガンダが一般市民に及ぼす影響を深刻化させています。特に、非自由主義的ナラティブの出所や内容が明示されても、その説得力が変わらない点からも、注意深く観察する必要があるといえます。
日本の民主主義への影響
この研究の結果は、将来的に日本の民主主義が非自由主義的ナラティブの波にどのように対抗できるかを考える上で重要です。非自由主義的ナラティブが広まることで、政治的反応や公の意見が変わる恐れがあるからです。したがって、こうしたナラティブに対抗するための効果的な情報発信と教育が求められています。
研究の意義
この研究によって示されたのは、日本人が権威主義的なナラティブから逃れられず、結果として民主主義を脅かす要因が潜在的に存在しているということです。今後の社会的環境において、対抗ナラティブの構築が必要不可欠であるという認識が求められています。権威主義国に有利なナラティブや心理的な障壁を打破し、自由で公正な社会を実現するための取り組みを進めることが必要です。
結論
日本人が権威主義国のナラティブに説得されやすい背景には、様々な社会的要因が重なっています。これを無視することは、日本の民主主義の未来に対する不安を助長する一因となります。この研究を通して、地域社会や教育機関が果たすべき役割がますます重要であることが示されました。