戦前日本の排外的ナショナリズムを言葉から読み解く
歴史を振り返る中で、特に興味深いのはナショナリズムの変遷です。それは、現在の国際情勢とも密接に関連しているため、一層の重要性を持っています。最近、東京理科大学の研究グループが行った研究により、戦前の日本における排外的ナショナリズムが「言葉の選択」によって測定できることが明らかになりました。この研究では、約30万件の新聞記事を分析し、外国名の表記の変化を通じて、当時の人々の意識を読み解く手法が提案されています。
研究の概要
松本朋子准教授をはじめとした研究チームは、戦前の日本で発行された新聞記事から、外国の地名がどのように表記されたかに着目しました。この研究では、外国の地名をカタカナで表記するのか、それとも漢字を用いた当て字で書くのかという選択に注目しました。カタカナは音をそのまま表現するのに対し、当て字は外国の名称を日本語の文字で置き換えるため、排外的な意識を反映しやすいと考えられます。
特異スペクトル変換法という統計的手法を用いて、この表記の変化を時系列で分析しました。その結果、排外的ナショナリズムはアメリカ・イギリスとの開戦の年である1941年よりも前、1936年に立ち上がっていたことが分かりました。このような分析は、ナショナリズムの変化を定量的に把握する新たなアプローチであり、現代の国際的対立を早期に捉える助けとなる可能性があります。
排外的ナショナリズムの出現
研究チームは、特定の国に対する意識の変化を追跡することで、排外的ナショナリズムが全ての外国に一様に向けられるわけではないことを明らかにしました。アメリカとイギリスの地名がより多く当て字で表記される一方で、ドイツやイタリアの地名はカタカナで表される傾向が見られました。このことは、戦争や同盟によって敵と味方を選別する意識が既に1920年代から存在していたことを示しています。
具体的な変遷
分析対象の新聞の記事には、1912年から1943年の過程での約30万件が含まれています。この研究では、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリアの4国について、新聞記事中に登場する地名がカタカナか当て字か、どちらで表記されるかを追跡し、その割合を算出しました。特に印象的なのは、1936年の二・二六事件に合わせて排外的な意識が顕著に高まったことです。戦局の変化に伴い、国民意識も変わっていったことが明らかになりました。
今後の展望と意義
この研究の意義は、排外的ナショナリズムの高まりを定量的に把握する新たな手法を提供することで、現在の国際情勢を見つめ直すための糸口となります。松本准教授は、言語データを用いたナショナリズムの時系列分析が、世論調査が困難な時代や地域でも有用であると強調しています。この手法が他の言語に応用可能となることで、世界の多様な言葉に対する理解も進むでしょう。
このように、歴史的な視点から過去を分析する試みは、現在の国際対立を理解する上でも重要です。言葉という側面からナショナリズムを分析することで、未来へ向けた警鐘となるかもしれないのです。