利益未達の企業が注目する将来志向戦略とその実態
近年、日本企業において、当期の利益が予想を下回った場合に翌期の利益について強気な予測を発表する企業が増えています。このような行動は、当期の業績が期待を下回ることで生じる印象悪化を軽減するための戦略として位置づけられます。
研究の背景
本研究は、韓国仁荷大学の閔廷媛教授、東京経済大学の金鉉玉教授、早稲田大学の内田交謹教授による共同研究であり、2003年から2015年にかけての日本企業3,273社の経営者による利益予想を分析しました。その結果、株式市場は当期の実績利益が未達であったとしても、翌期の利益予想が強気であれば好意的な反応を示すことが明らかになりました。
強気な予想のメリット
当期の利益が目標に達しなかった企業は、翌期の利益予想がしかも厳しい状況下での発信により、市場の期待を上回る展望を示すことで、株主や投資家の印象を和らげようとします。実際、研究結果によれば、当期未達の企業の約65%が翌期について無理な強気予想を発表していることがわかりました。
このような戦略には、株式市場からのプラスの反応が期待されます。実際には、当期の利益未達を受けた企業が将来への明るい展望を示すことで、株主の印象を改善しようとしています。ただし、同様の戦略を繰り返すことで、投資家の反応は次第に薄れていく危険性もあるため、持続的な効果を得るには工夫が必要です。
印象マネジメントの複雑性
さらに本研究は、印象マネジメントに影響を与える要因も特定しました。機関投資家の存在やアナリストの予想、さらには女性取締役の多い企業では、経営者の強気な予想が効力を弱める傾向があります。これは、企業内部での管理や透明性の高い情報開示が期待されるためです。
まとめ
経営者による強気な利益予想は、印象マネジメントの一手段として機能することが明らかになりました。この戦略により企業は、短期的な業績未達による負の印象を相対的に緩和し、株主の信頼を回復しようと努めています。一見無理な目標設定ではあるものの、企業が持つ将来への希望や努力を示すこの行動は、経営者自身の能力や企業の健全性さえも問われる重要な局面において、先を見越した戦略として注目されるべきです。
本研究は、経営者の振る舞いや企業の将来戦略に新たな視点を提供し、経済界における印象形成のメカニズムにも新たな理解をもたらしました。また、今後の研究においては、経営者が実施できる他の印象マネジメントの手法についても、さらなる分析が待たれています。