企業の加齢とイノベーションの相関: 硬直性の影響を探る研究成果

企業が年齢を重ねることで生じるイノベーションの低下

企業が加齢するという現象に直面する多くの企業にとって、そのパフォーマンスの低下は無視できない問題です。これまでの研究では、企業は年齢とともに硬直化し、柔軟な経営資源の再配置が難しくなるため、収益性やイノベーションの質が落ちると考えられてきました。しかし、その硬直化を定量的に測定する方法は明らかにされていませんでした。

そこで、早稲田大学の清水洋教授やウィスコンシン大学の山口翔太郎アシスタント・プロフェッサーらの研究グループは、企業の研究開発（R&D）ポートフォリオをもとに硬直性を測定する方法を開発しました。この研究は、硬直性が高まると、発明の質は低下し、発明の量は増加することを示しています。つまり、同じ技術分野に持続的に焦点を当てすぎることで、イノベーションが難しくなることが明らかになったのです。

研究の背景と目的

企業の高齢化がもたらす問題は、これまで広く認識されていました。企業が年齢を重ねると、収益性の低下や新たなイノベーションが生まれにくくなる傾向が見られ、多くの企業が新陳代謝を望むようになります。しかし、新しい企業やスタートアップが存在しなければ、経済全体の活性化は難しいのが現実です。

この研究では、企業の研究開発ポートフォリオとその過去の技術との距離をコサイン類似度を用いて測定しました。これにより、企業の硬直性を数量化し、その影響を明確にすることを目指しました。

研究の主な成果

今回の研究によって、企業の研究開発ポートフォリオが硬直化すると、確かに発明の質は落ちるが、その一方で発明の数量は増加することが分かりました。この発見は、企業が同じ技術分野に執着し続けることが多大な影響を及ぼすことを示しています。特に高齢化した企業は、新たな技術や戦略を模索するために、経営資源の柔軟な組み換えが鍵となることが強く示唆されています。

この研究はアメリカ企業を対象としましたが、日本の企業でも同様の傾向が観察されており、日本企業の硬直化の程度は、30歳代の企業が90歳代のアメリカ企業と同程度であることが示されました。

社会的影響と今後の展望

日本の企業においては、新陳代謝が著しく低下しており、企業の高齢化が進んでいると指摘されています。この状況は、経営資源を柔軟に再配置する能力が穿たれていることを示しています。研究者たちは、新たな企業の創出や既存企業の退出を促進することが、今後の課題であると位置づけています。

加齢そのものは問題ではなく、加齢に伴う硬直化が問題なのです。今後は、どのような企業が加齢しても硬直化しないのか、また同じ領域で研究を続けることがいかに重要かを分析していく予定です。

結論

企業の加齢とイノベーションの関係を解明したこの研究は、市場における競争力を持続させるための新しい指針を提供しています。既存の大企業が持つべき役割は、イノベーションの追求だけでなく、いかにして硬直化を避け、柔軟な戦略を持つかにかかっています。企業の未来を考える上で、柔軟性の確保はますます重要になります。今後の更なる研究に期待が寄せられています。