デザイン思考教育が変えた富山商業高校の未来とその影響
デザインは見た目や表層的な部分だけを指すものではありません。それ以上に、物事の本質を理解し、より良い未来を創造するための強力なツールです。富山県立富山商業高等学校(富商)は、デザイン思考を取り入れた教育プログラムを通じて、生徒の学びを大きく変えています。このプログラムは、デザインファームのhyphenateと協力して設計され、生徒の主体性を引き出し、学校の魅力を高める成果を上げています。
教育の改革と生徒の成長
2021年より富商はデザイン思考教育に着手。生徒が自ら問いを立て、考え、形にするプロセスは、受け身の学びから能動的な学びへと変化をもたらしました。特に注目されるのは、制服をテーマにしたプロジェクトです。「自分が着たい制服とは何か?」という疑問からスタートした授業は、生徒たちの熱意を引き出す要因となっています。生徒はインタビューを通じて情報を集め、アイデアを試作し、フィードバックを得て改良を重ねるというサイクルを経験しました。この実践を通じ、彼らはデザイン思考の基本的プロセスを自然と学んでいくのです。
本質的な気づきを生む教材としての制服
特に興味深いのは、富商でのプロトタイピングの手法です。通常の教育では教えられない「安全ピンを使った仮止め」などのユニークなアプローチが取り入れられ、生徒は「理想のシルエット」を探る中で本質的な問題に気づくことができました。この授業では、表面的な可愛さだけではなく、自校の制服が持つ本質的な課題にも目を向けることが求められます。このような素材としての制服は、生徒にとって最適な学習機会を提供するのです。
社会とつながる実践的な経験
また、商業実践イベント「TOMI SHOP」では、生徒たちが自ら考案した制服を発表するファッションショーを開催。台本も演出もすべて生徒が手掛け、中学生も巻き込むことによって彼らのアウトプットが社会とつながる経験を提供しました。「制服を通じてこんなに話し合えるとは思わなかった」といった生徒の声は、まさにこの取り組みの成果を反映しています。
校則もデザイン思考の対象に
もちろん、教育の内容は制服だけに留まりません。「学校のルール」も思想の対象として取り上げ、生徒の意見を基にしたルールの見直しが行われています。「制服の自由化」や「ジェンダーニュートラル対応」など、地域のニーズに合ったルールへのアップデートを進めながら、生徒と教員が共に協働する姿勢が重要です。学校全体が「学びの場」として進化を遂げる様子は、富商の教育の質を確実に向上させていると言えるでしょう。
確かな成果を示す入学志願倍率
デザイン思考を導入して以降、富商の入学志願者数は急増し、2024年度には県内でトップの倍率を誇りました。これは、教育プログラムが生徒の学びをどう刺激し、改善したかを示す指標でもあります。生徒たちが自身の学びと成長を通じて「自分ごと」を実感できるようになった結果、学校全体の教育力が向上しました。
未来に向けたデザイン思考教育
hyphenateは、今後も富商とともにデザイン思考の理念を広げていく考えです。「問いを立てる」「見直す」「創造する」という3つの力を通じて、新しい未来を自己の手で創造する人材を育てていくことを目指しています。
教育が社会に与えるインパクトは計り知れません。デザイン×教育を交差させ、より面白く、意味のある未来を生み出す貢献を続けていきたいと考えています。学びの中で得た気づきや経験が、生徒たちの未来に生き続けることを願ってやみません。