次世代磁性材料の設計指針を示す革新的研究成果
東京理科大学の研究推進機構で山崎貴大助教を中心とするチームが、次世代の低損失磁性材料の設計に向けた重要な知見を発表しました。本研究のポイントは、独自開発した高感度の磁気バルクハウゼンノイズ(MBN)測定システムを使用して、金属材料内の磁壁の緩和挙動を直接観察できたことです。
研究の背景
近年、パワーエレクトロニクスの技術革新が進み、低損失軟磁性材料の需要が高まっています。特に、これらの材料におけるエネルギー損失は、鉄損さまざまな要因により制約されてきました。異常渦電流損失はその中でも特に重要な課題です。これまでの研究では、磁壁の動きとエネルギー損失との因果関係を正確に把握することが難しい状況でした。
そこで、研究チームは広帯域かつ高感度なMBN測定システムを開発し、Fe-Si-B-P-Cu系のアモルファスおよびナノ結晶合金リボン(NANOMET®)に適用。金属内部で発生するMBN信号を単一パルスで捉え、その緩和過程を分析しました。これにより、磁壁の動きとエネルギー損失の関係を明らかにしました。
研究の成果
研究チームは、観察されたMBNパルスの減衰過程に関する統計解析を行い、平均緩和時定数が3.8μsであることを確認しました。これにより、同材料内の微細構造やピン止めサイトがエネルギー損逸に与える影響を定量的に評価しました。
特にアモルファス材料においては、急速な立ち上がりと緩やかな減衰のパルスが観測され、これは磁壁の緩やかな動きとエネルギー散逸との関連を示すものでした。また、熱処理を行うことでパルスの大きさが大幅に減少することがわかり、材料の微細構造が磁壁の移動に与える影響が示されました。
磁壁ダイナミクスの解明
本研究は、理論と実験を用いて磁壁の内在的性質よりも、移動に伴う渦電流による粘性抵抗が支配的であることを示しました。具体的には、異常渦電流損失は磁壁の動きによる局所的な電磁応答と密接に関連していることが明らかにされました。これにより、次世代の材料設計に向けた指針が提示されました。
今後の展望
山崎助教は、「本研究で確立したMBN測定技術は、低損失軟磁性材料の設計に広く応用可能です。この技術を活用することで、電力変換機器やEV用モーターにおけるエネルギー効率の大幅な向上が期待できます。また、小型・軽量な電気機器の実現が進めば、再生可能エネルギーの活用に対する運用効率も改善されるでしょう」と述べ、今後の成果に期待を寄せています。
この研究結果は、2025年8月にIEEE Accessにオンライン掲載されました。可視化された磁壁の動態は、磁性材料の新たな設計指針となることが期待されています。