文化財のデジタルトランスフォーメーションを推進する新戦略

公益社団法人日本文化財保護協会が新たに提唱した「文化財DX推進宣言」は、文化財の保存と活用におけるデジタル技術の重要性を強調し、官民連携を深めることで文化財保護の未来を切り開く取り組みです。近年、文化財保護の現場では、デジタルトランスフォーメーション（DX）が一層重要視されています。生産性向上や効率化だけでなく、より革新的なサービスの創出を目指すこの動きは、多岐にわたる主体の協力によって進められています。

文化財DXの背景と目的

日本の文化財保護法に基づくこれまでの取り組みは、着実に文化財の保存と活用を進めてきましたが、急速な少子高齢化に伴う担い手不足が大きな課題となっています。文化財DXは、この担い手不足を解消し、持続可能な文化財の保存と活用を実現するための新たな道を模索しています。さらに、地震や台風といった自然災害の影響も深刻です。デジタル技術を用いることで、迅速かつ効率的に文化財の保護や復元作業が可能になることが期待されています。

したがって、文化財DXの主な目的は、すべての業務工程にデジタル技術を導入することにあります。これにより文化財の価値を高め、デジタルデータの利活用を進める新たな価値観を創出することが狙いです。

DX推進委員会の設立

この宣言の背後には、DX推進委員会の設立があります。委員長を務めるのは、公立小松大学の特任准教授である野口淳氏で、官民の幅広い連携を図りながら、文化財保護の専門知識を集積し、社会全体に新たな価値を還元することを目指しています。委員会は、デジタル技術の活用が文化財保護にどのように貢献できるかを検討し、未来の文化政策をリードする役割を担います。

デジタルデータの価値

文化財DXの一環として注目されるのが、文化財デジタルデータの価値です。デジタル技術の発展により、物理的な文化財と並ぶ価値を持つデジタルデータが認識されつつあります。これにより、既存の文化資源を活用した新たなサービスやコンテンツの創出が期待され、その利用可能性が大いに広がります。

また、デジタルデータの標準化を進め、文化財に関する情報の収集、共有、活用が円滑に行える基盤を整備することも重要な課題です。全国の関係機関が協力し、透明性のある仕組みを構築することが文化財DXの根幹となります。

社会的意義と今後の展望

文化財DXの進展は、文化財保護の分野における社会的意義を大いに高めます。文化財の保存と活用は、単に過去を守るだけでなく、未来の世代へと受け継ぐための重要な使命です。デジタル技術の導入は、文化財の価値を社会に還元する新たな可能性を提供します。

コロナ禍による影響で、デジタル化が加速した昨今は、文化財へのアクセスがさらに容易になっています。今後、デジタルミュージアムやGIGAスクールなど、既存の施策と連携しながら、文化資源の利活用が進むことで、より多くの人々が文化に触れる機会が増えることが期待されます。

文化財DXは、文化財保護の新たな方向性だけでなく、広く国民にその価値を伝える重要な機会です。私たちが抱える歴史や文化を、デジタルの力を通じてより多くの人々と共有し、共に育んでいくために、今後の取り組みに注目していきたいです。