香りと脳の新たな関係性を探る
2025年9月、東京大学大学院農学生命科学研究科の東原研究室が、SCENTMATIC株式会社との共同研究の成果を「2025年度 日本味と匂学会第59回大会」で発表しました。この研究は、香りと言葉を相互に変換するAIシステム「KAORIUM」が人々にもたらす社会的価値を科学的に検証するものです。
共同研究の背景
2020年に始まったこの共同研究は、嗅覚研究の最前線である東原研究室と、香りを言語化する技術を持つセントマティックの専門知識が結集されました。特に、KAORIUMは香りを理解し、伝える新たな方法を探求しています。香りは、果物のような具体的なものから、心理的な効果に至るまで、多様な側面を持っています。そのため、香りの評価がどのように脳で処理されるかを理解することが重要です。
実験の詳細
この研究では、機能的MRI(fMRI)を用いて33名の参加者の脳活動を計測しました。参加者には以下の2つの異なる条件で香りの評価を指示しました:1つ目は、香りの正体を意識させる「Source条件」、2つ目は、その香りがどのような気分をもたらすかに焦点を当てた「Impression条件」です。これにより、香りに対する意識の向け方の違いが脳のどのような活動を引き起こすのかを明らかにすることが目指されました。
使用されたのは、4種類の香りであり、これらの香りがもたらす脳活動の違いを分析するために、GLM解析や機能的結合解析など複数の脳解析手法が用いられました。これにより、同じ香りでも意識の向け方によって異なる処理がなされることが示唆されています。
研究の成果
研究の結果、人間の嗅覚システムは、香りの属性に対する意識の持ち方によって処理が変わることが判明しました。特に、香りは人の感情や記憶と深く結びついており、感情を喚起する役割を果たしていることが考察されました。この結果は、KAORIUMを通じた香りの体験がどのように脳で処理され、言語化されるのかを理解するための重要なデータとなります。
また、本研究の成果は、今後の嗅覚インターフェースの研究や感性情報の取り扱いにおいても大いに役立つことが期待されています。これは、香りを新たな形で体験することを可能にするための科学的基盤となります。
結論
この共同研究は、KAORIUMが提供する新しい香りの体験が、単なる嗅覚の刺激に留まらず、脳に深い影響を及ぼすことを示しました。今後、香りと言葉の相互作用に関する研究が進むことで、私たちの感性がどのように進化するのか、またそれがビジネスシーンにどのように活用されるかが注目されます。これは、あらゆる分野での香りの重要性を再認識させるきっかけとなるでしょう。
東京大学とセントマティックが織りなす香りの科学は、今後も私たちの生活に新たな価値を創出していくことでしょう。