新しい資源循環技術の幕開け
近年、環境問題がますます深刻化する中、国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)と株式会社フソウは、革新的な技術を共同で開発しました。この技術は、産業廃水に含まれるアンモニウムイオン(NH4+)を回収し、資源として有効活用することを目的としています。具体的には、プルシアンブルーを基にした吸着材を用いて、メッキ工業廃水中からNH4+を選択的に吸着し、下水排出基準を大幅に下回る濃度に低減した上で、高濃度の溶液として回収することが可能になります。
窒素化合物の循環利用の重要性
アンモニアは肥料や工業製品の原料として重要ですが、その環境放出は水質汚染や気候変動の原因となっています。このため、持続可能な窒素管理が国際的に求められています。特に、2022年の国連環境総会での決議を受け、日本でも「持続可能な窒素管理に関する行動計画」が策定され、アンモニアの回収と再利用が急務とされています。
プルシアンブルーの革新
プルシアンブルーは18世紀から使用されてきた青色顔料で、鉄原子とシアノ基の結晶構造を持っています。産総研はこのプルシアンブルーに亜鉛を添加し、より効率的にNH4+を吸着する新しい吸着材を開発しました。銅を用いた従来の方法では脱離が難しかったNH4+を、亜鉛によって効果的に脱着できる可能性を見出しました。この新しいアプローチにより、NH4+を高濃度溶液として回収することが実現しました。
連続処理装置の開発
開発チームは、プルシアンブルーを用いた吸着材を充填したカラム型装置を設計しました。この装置は、廃水を通水しNH4+を吸着後、塩化カリウム水溶液でNH4+を脱離させるというプロセスを繰り返すことで、連続的に廃水を処理します。実際のメッキ工場でのテストでは、初期のNH4+濃度を310 mg/Lにまで低下させることに成功し、下水に放流可能な基準をクリアしました。また、回収したNH4+は21.4倍に濃縮され、再利用が期待されます。
今後の展望
フソウでは、2025年4月から吸着材のサンプル出荷を開始し、さらなる商業化に向けた取り組みを進めていく予定です。また、下水や他の農業廃水に対する同様の技術の展開も計画されています。この新技術は、水処理市場約3兆円の規模の中で大きな役割を果たすと考えられており、持続可能な社会に向けた重要なステップになることでしょう。
プルシアンブルーによる新たな資源循環技術は、私たちの環境を守るだけでなく、次世代の経済活動においても重要な資源を提供することが期待されます。この革新的な技術を通じて、未来社会の持続可能性を実現することが、私たちの課題です。