「その人らしさは消えない」とは
再び本を手に取ってみてください。この絵本は、一見するとただの児童向けの本のように思えるかもしれませんが、実は私たち大人が今、真剣に考えるべきテーマを内包しているのです。脳科学者である恩蔵絢子さんが描いた『その人らしさ なくならない』は、大切な母との日々を基にした物語であり、認知症の理解を深めるための重要なメッセージを伝えています。
認知症と向き合う
認知症を患っている方は、日本国内に約700万人いるとされ、これは決して他人事ではありません。高齢化社会が進む中で、私たちはこの問題から目を背けることはできません。しかし、この絵本は「認知症になっても、その人らしさは失われない」という希望の光を私たちに投げかけています。
物語の内容
絵本は、母と娘の対話形式で進行します。母はある日、料理ができなくなってしまい、自分の過去を失っていく不安に襲われます。娘はそんな母に寄り添い、「だいじょうぶだよ、おかあさん」と優しく声をかけ続けます。この繊細なやりとりには、多くの人が共感できるでしょう。特に、身近に認知症の方がいる方々には深い理解をもたらす内容となっています。
読者は、絵本の展開を通じて、障害を持つ家族とどのようにコミュニケーションを取り、どのように接していけばよいのかについて考えさせられることでしょう。
感情は残る
重要なのは、認知症になったとしても「好き」という感情は残るということです。物語の中で、母が自分の好きな花や歌をふと思い出し、娘のことも思い出すシーンは、認知症に対する偏見を打破します。このように、気持ちは消えないということを強調しています。
巻末の資料
また、本書の巻末には「脳科学者から見た認知症」として、10ページ以上にわたる解説が掲載されています。脳の記憶に関する知識や、感情と認知症の関わりについてのわかりやすい説明があり、専門的な視野を持たない人にも理解できる内容となっています。
出版記念イベント
さらに、絵本の出版を記念したイベントも開催されます。「脳科学者・恩蔵絢子さんが語る、認知症と”その人らしさ”」というタイトルで、9月15日に誠品生活日本橋 FORUMにて行われます。訪問が難しい方のために、オンライン参加も可能です。詳細については、ぜひ公式サイトをご覧ください。
絵本の魅力
絵を担当しているのは人気アニメーション作家の大谷たらふさんです。作品全体に流れるやさしさと温もりは、読者の心を包み込み、静かな感動を呼び起こします。今回の絵本は、ただの物語にとどまらず、私たちが抱える大切な感情に向き合わせてくれる一冊です。
まとめ
認知症を患う方とその家族の実際の体験に基づいたこの絵本は、ただの上辺だけの描写ではなく、心の奥深くに触れ、人生の中で何が本当に大切なのかを考えさせる作品となっています。再度、手に取ってみる価値のある一冊です。