下水サーベイランスがもたらす新たな感染症対策の可能性
COVID-19の影響で、世界中で様々な感染症対策が模索されていますが、その中でも特に注目を浴びているのが、下水サーベイランスという手法です。これは、下水中に存在するウイルスをモニタリングし、集団内の感染状態を早期に把握することを目的としています。早稲田大学の研究チームが行った新たな分析によれば、下水サーベイランスは高齢者施設へもたらす経済的な便益が、なんと最大58億円にも達する可能性があることが明らかになりました。
下水サーベイランスの利点
この手法は、従来の臨床検査に比べて「早く、安く、正確に」感染状況を把握できるという特長があります。一般的な臨床検査では、ヒトから直接サンプルを取る必要がありますが、下水サーベイランスは、下水を調査するだけで済むため、効率的です。これにより、感染の初期段階での警報システムが実現し、特に高齢者施設においては、臨床スクリーニング検査のタイミングを最適化できる可能性があります。
このシステムを活用することで、例えば入居者100人、スタッフ60人を抱える高齢者施設あたりで、検査にかかるコストが31万円から226万円の間で済むことが分かっています。これにより、全国で最大58億円の便益が生まれるとの推定がされています。
他国と比べる日本の現状
欧米の国々では、すでに数千件の下水サーベイランスが行われており、その他の感染症に対しても適用されています。しかし、日本はまだ導入が進んでいない現状があります。早稲田大学と神奈川県立保健福祉大学の研究チームが行ったこの研究は、日本でも全国規模での下水サーベイランスの導入の必要性を示唆しています。
新たな経済的価値の計測方法
本研究における最大の成果は、下水サーベイランスのもたらす経済的便益を明確に数値化する手法が開発されたことです。このシミュレーション分析を通じて、COVID-19の感染爆発を早期に検知することで得られる便益と、実際にかかる費用の比較が行われ、一定の閾値を越えた場合に便益が生じることが確認されました。ROI(投資回収率)の推定値が1を超えれば、経済的に正当化できるという結果が得られました。
未来への展望
本研究が示したように、下水サーベイランスは高齢者施設やその他の集団の健康を守るうえで大きな役割を果たす可能性があります。今後、日本国内での実証事業が進むことで、より正確な便益の額が測定され、効率的な感染症対策が行える体制が整うことが期待されます。また、下水サーベイランスの手法が他の感染症への応用にもつながることで、日本の保健医療システム全体の向上に寄与することでしょう。
このように、下水サーベイランスは単なる感染症対策を超え、経済面での効果も期待できる重要な施策であると言えます。今後の研究・実施に期待が寄せられています。