岡山大学が明らかにした脂肪代謝の新メカニズム
2025年5月28日、岡山大学の研究チームは、小分子化合物エスクレチンが脂肪組織マクロファージ(ATM)の貪食活性を高め、食後の脂質クリアランスを加速することを発表しました。この研究は、中国の厦門大学附属病院との国際共同研究によって行われました。
研究の背景と目的
近年、肥満や代謝異常の増加が懸念されており、それに伴う生活習慣病のリスクを低減することが求められています。私たちの体内には、脂肪組織があり、ここにはマクロファージと呼ばれる免疫細胞が存在しています。これらの細胞は、食後の脂質を処理する重要な役割を果たしていますが、その具体的なメカニズムについては十分に解明されていませんでした。
新発見のポイント
岡山大学の研究者たちは、エスクレチンが転写因子C/EBPβに直接結合することで、その発現を高めることを発見しました。これにより、スカベンジャー受容体CD36の発現が促進され、ATMによる食後脂質の貪食作用が向上します。その結果、HDLコレステロールの生成が促進され、胆汁酸の排泄が活発化し、食後の血中脂質が迅速にクリアランスされることが明らかとなりました。
テラヘルツ波ケミカル顕微鏡の活用
また、本研究の特筆すべき点は、テラヘルツ波ケミカル顕微鏡(TCM)を用いて分子レベルにおける相互作用を可視化したことです。この技術は、従来の医学的研究ではあまり使用されていませんでしたが、脂肪代謝に関連する新たな視点を提供しています。
テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いることで、エスクレチンとC/EBPβの結合を非侵襲的に観察することが可能になり、薬剤と転写因子間の相互作用を詳細に分析することができました。これにより、これまで捉えきれなかった新しい脂肪代謝のメカニズムが解明されたのです。
研究の意義と今後の展望
王璡准教授は、「今回の研究では、脂肪をためるだけでなく、それを処理する脂肪組織マクロファージの重要な役割が示されました。テラヘルツ波ケミカル顕微鏡を用いたことにより、分子間相互作用の可視化が可能となり、食後代謝を制御する新しいメカニズムの扉が開かれたと感じています。」と述べています。
本研究は、地域中核や特色ある研究大学としての岡山大学の役割を強化する一環であり、国際的に著名な科学雑誌『Theranostics』に掲載されました。この成果は、将来的な医学的応用や新しい治療法の開発に繋がる可能性があります。具体的には、肥満や代謝障害に対する新しい治療戦略が提案されることが期待されます。
発表論文情報
- - 論文名: A small molecule esculetin accelerates postprandial lipid clearance involving activation of C/EBPβ and CD36-mediated phagocytosis by adipose tissue macrophages
- - 掲載紙: Theranostics 2025, Vol. 15, Issue 12, pp. 5910–5930
- - DOI: doi.org/10.7150/thno.110207
この研究が、私たちの健康管理や疾患予防にいかに寄与するのか、今後のさらなる展開に注目です。