生物の「社会的絶滅」を理解する新たな枠組みの提案
近年、生物多様性の損失が問題視される中、東京都立大学の大澤隆文准教授と大澤剛士准教授は、生物種が社会から忘れ去られる「社会的絶滅」という概念を新たに提案しました。この概念は、生物が依然として自然界に存在していたとしても、社会がその存在を認識しない、もしくは興味を持たない場合、その生物は事実上「消えている」とみなされることを示しています。
研究の背景と目的
生物の絶滅リスクは、通常は環境や生態系における個体数、分布域を基に評価されてきました。しかし、本研究は、個体数や生息地の状態だけではなく・人間社会との関連性を考慮し、社会からの認知度を評価することの重要性を強調しています。この試みの背景には、絶滅危惧種への関心の偏りや、企業の保全活動が認知度の高い種に偏る傾向が見受けられます。
研究者たちは、2020年版日本版レッドリストに掲載された1,155種を対象に、Google Trendsを通じてこれらの種についての人々の関心を分析しました。ここで得られたデータから、対象種の半数以上が「社会的絶滅」に近い状態にあることが確認されました。
研究方法と結果
この研究では、まず「社会的絶滅」の概念を定量的に評価するための枠組みが構築されました。Google Trendsを使用して、過去4年間(2020年3月から2024年3月)の検索動向を調査しました。その結果、多くの絶滅危惧種が低い検索頻度から、ほぼ認知されていない状態であることが判明しました。特に、検索頻度がゼロに近い種が多く見られ、これにより、社会的には忘れ去られた状態を示唆しています。
一方で、一部の生物種はその人気やメディア露出によって高い検索頻度を持ち、企業からの支援も受けやすいことが明らかになりました。このような偏りは、保全において特定種が優先される原因となるのです。
研究の意義と展望
この研究は、「社会的絶滅」という新たな視点を提供することで、これまでの絶滅リスク評価の枠組みを拡張し、重要な種への関心を再評価する契機となります。また、こうした認知の低い種が生物学的絶滅に向かう可能性を可視化することで、限られた保全資源の効果的な配分に寄与することが期待されています。
今後、一般市民にとっても生物多様性の保全の重要性を理解する助けとなるでしょう。さらに、他のメディアの影響も調査対象に加えることで、より包括的な評価手法の開発が望まれます。
この研究成果は、2026年10月27日に国際学術誌『Conservation Biology』に発表され、今後の生物保全活動への影響が注目されています。