研究背景
株式会社テックドクターが発表した画期的な研究は、双極性障害患者における気分エピソードを事前に予測する方法に新たな視点を提供しました。双極性障害は、躁状態と鬱状態が周期的に変化し、患者にとって非常に厄介な精神疾患です。このため、気分エピソードの早期発見と予防は、患者のQOL(生活の質)を向上させるために非常に重要です。
従来、医師や患者は問診や自己申告による方法で気分状態を評価してきましたが、これには主観的なバイアスが絡むため、早期発見が難しいという課題がありました。このような背景から、ウェアラブルデバイスの活用が求められるようになりました。
研究概要
テックドクターの研究では、44歳の双極性障害と診断された男性を対象に、約8ヶ月にわたりウェアラブルデバイスから収集したデータを用いています。この研究では、GoogleのFitbit Charge 6から取得した心拍数や睡眠パラメータを活用し、気分状態を記録するためにeMoodsアプリを用いました。このアプリでは、抑うつ気分や気分高揚など4つの状態を1から4のスコアで評価しました。
研究の実施内容
- - データ収集: 心拍数、睡眠時間、活動量、日々の気分評価
- - 期間: 2024年2月から11月まで
このように、客観的なデータを基にしながら、これまでの主観的な方法と組み合わせることで新たな知見を得られることが期待されました。
研究結果の解析
解析の結果、以下の重要な発見が得られました。
1.
夜間RMSSDの低下: 夜間の心拍変動(RMSSD)が個人のベースラインから1.5標準偏差以上低下した場合、抑うつ気分が悪化するリスクが87%に上ります。この示唆は、気分エピソードの兆候を早期に把握できる可能性を示しています。
2.
睡眠時間の影響: 睡眠時間が短くなると、気分が高揚する度合いが高まる傾向が見られました。具体的には、睡眠時間が減少することで、気分高揚スコアが上昇することが確認されました。
3.
日中のHRVや活動量と気分の関連: 日中の心拍変動や活動量と気分状態の間には明確な関連性は見られませんでした。
このように、本研究の結果は双極性障害の気分エピソード予測における新たなアプローチを提示しています。
社会的意義と今後の展望
テックドクターの研究成果は、ウェアラブルデバイスとスマートフォンアプリを組み合わせて取得されたデータが、双極性障害の気分エピソードの早期発見に寄与する可能性を示しています。特に、夜の心拍変動は従来の自己報告では捉えにくい変化を示唆しており、臨床の現場での新たな診断ツールと見做されるかもしれません。
今後は、より大規模なデータ収集とともに、実務に基づいた予測モデルの開発が期待されます。テックドクターは、精神疾患の患者に対する客観的評価手法の可能性を追求し、データに基づく新たな医療の発展に貢献することを目指しています。
まとめ
テックドクターの研究結果は、ウェアラブルデバイスの利用がもたらす新たな医療の光明を示唆しています。このアプローチが今後、双極性障害の気分エピソードの管理において重要な役割を果たすことに期待が寄せられています。