日本の従業員エンゲージメント調査の結果
株式会社アジャイルHRと株式会社インテージが共同で実施した「A&Iエンゲージメント標準調査」の2023年の全国調査結果が発表されました。調査の目的は、日本国内の従業員エンゲージメントの実態を把握し、その要因を分析することです。今回は、従業員エンゲージメントに関するデータとともに、改善のための示唆を提供します。
調査の目的
本調査は、以下の3つの目的をもって行われました。
1. 日本の従業員エンゲージメントが世界的に低い理由を解明すること
2. 昨年から今年にかけてのエンゲージメントの変動を分析すること
3. 人材投資やDX(デジタルトランスフォーメーション)、リモートワークなどがエンゲージメントに与える影響を調査すること
調査結果の概要
調査の結果、日本の平均的な従業員エンゲージメントは2.54で、これは中立を示すスコア2.5をわずかに上回る程度です。特に、組織コミットメントのスコアは2.45と低く、従業員が企業に対して強い愛着を持てていないことが問題視されています。また、ワークエンゲージメントは2.64であり、職場での活力を感じられていない事実が浮き彫りになりました。
低いエンゲージメントの理由
調査から明らかになった低いエンゲージメントの一因は、以下の数点に集約されます。
1. 愛着心の欠如
エンゲージメントを測る要素の一つである組織コミットメントは、会社に対する愛着や思い入れを反映しますが、調査結果ではこれが低いことが分かりました。自分の役割や仕事の意義は認識されているものの、その先にある企業への思いが薄れているのです。
2. 活力不足
ワークエンゲージメントは、活力、熱意、没頭から成り立っていますが、活力のスコアがとても低いことが示されました。仕事に対するエネルギーが乏しく、心の余裕を欠いている従業員が多いことが伺えます。
3. マネジメントの問題
職場運営、つまりマネジメントに関する問題も大きな要因です。調査では、職場の雰囲気や人間関係がエンゲージメントにプラスに働くことが示されています。その逆に、マネジメントが不十分である場合、従業員のモチベーションやエンゲージメントにも悪影響を及ぼします。
4. フィードバック不足
フィードバックや学びの機会が不十分であることも目立ちます。このような機会がないことで、従業員は成長を実感できず、エンゲージメントが低下するという悪循環に陥ります。特に、キャリア形成や人事評価についての透明性の欠如が大きな影響を与えています。
年代別・役職別のエンゲージメントの差
調査結果から、年代別のエンゲージメントには顕著な違いが見られます。特に30歳代から50歳代の組織コミットメントが特に低く、このことが全国平均を圧迫しています。
また、役職別に見ると、上層部と現場の体感温度に大きな差があることも浮き彫りになりました。一方で、非正規雇用者、特に派遣社員の組織コミットメントが著しく低い傾向にあります。
業種・規模別のエンゲージメント
業種別にも差があり、「教育、学習支援業」のワークエンゲージメントが高い一方で、「製造業」が低い傾向にあります。従業員の規模によっても、特に50人を境にエンゲージメントが変動し、「50人の壁」と呼ばれる現象が確認されています。
改善に向けた提言
このような状況を鑑みて、企業はエンゲージメント向上のために以下のような対策を検討する必要があります。
1. マネジメント層の教育
中堅社員をマネジメント層として教育し、組織コミットメントを高めるための施策が求められます。上層部とのコミュニケーションを強化し、意見をに耳を傾ける文化を醸成することも重要です。
2. 人材投資の強化
人材育成や福利厚生の充実をはかることで、従業員が企業における成長を実感できるようにすべきです。DXの導入による業務効率化と働きやすい環境の整備も必要です。
3. フィードバック文化の浸透
職場内でのフィードバックやキャリア形成の機会を増やし、従業員のモチベーションを高めましょう。また、評価基準を明確にし、透明性をもたせることが重要です。
結論
2023年の調査結果は、日本の従業員エンゲージメントの重要な課題を示しており、今後の企業戦略の根幹を成すものとなるでしょう。エンゲージメントを高めるためには、マネジメントの改善や人材投資に力を入れることが求められています。今後の調査結果を注視し、企業がこの問題に取り組んでいくことが期待されます。