身体的拘束問題、国の施策強化後に増加する病院の実態
近年、医療現場での身体的拘束の増加が注目されています。グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の調査によると、国が身体的拘束を抑制する施策を強化したにも関わらず、約4割の病院で拘束が増加していることが明らかになりました。これは単なる倫理的な問題に留まらず、病院経営にも深刻な影響を及ぼす可能性があります。
身体的拘束の実態
身体的拘束は、紐や腰ベルトなどを使用したり、向精神薬を投与したり、病室を隔離したりする行為です。これらは患者の行動を制限することを目的として行われますが、緊急時の適正な手続きなしに行われる場合は、虐待とみなされることがあります。患者の尊厳を保ちながら、どうやって安全を確保するかが現在の大きな課題です。
医療報酬制度の変化
2024年度の診療報酬改定では、新たに「身体的拘束最小化の基準」が設けられました。この基準によって、緊急で身体的拘束が行われた場合、その理由と記録を報告することが義務付けられます。また、身体的拘束の減少を目指す「身体的拘束最小化チーム」の設置が求められています。これらの基準を満たさない場合、入院基本料の減算が行われ、経営に大きな影響が出ることが予想されます。
例えば、100床を有し、病床稼働率が90%の病棟では、1年間で約1320万円の減収が見込まれます。これは病院経営にとって大きな打撃となるでしょう。したがって、医療機関は身体的拘束の最低化に向けた具体的な取り組みを強化する必要があります。
GHCによる調査結果
GHCは、保有する1000以上の医療機関のビッグデータを活用して、身体的拘束の実施日数について分析を行いました。対象となるのは、2024年1月から3月(改定前)と2025年1月から3月(改定後)のデータを保有する816病院で、合計24万1941例の症例データが分析に利用されました。
その分析結果によると、改定後に身体的拘束を減少させた病院は526院である一方、290院ではその増加が見られました。このことから、身体的拘束の状況が病院間で大きく異なっていることが示されています。
医療ニーズの変化
分析を行ったGHCの理学療法士であった小岩雄大氏は、身体的拘束の最小化に向けた取り組みが進展している一方で、病院間のばらつきが問題であると指摘しています。特に、急性期の高齢者医療や、せん妄リスクの高い患者が増加することによって、身体的拘束が増加することもあります。このため、病院は院内で状況を共有し、必要な対応策を議論するとともに、増加の要因を正確に把握することが重要です。
場合によっては、現場の判断基準や記録メソッドを再検討する必要があり、身体的拘束を誘発する医療行為の見直しも求められます。これは、患者の質の高いケアを確保する上でも非常に重要です。
まとめ
身体的拘束問題は、医療の質だけでなく、病院経営にも影響を及ぼす複雑な問題です。国の施策が強化される中、病院がどのように対応していくかが今後の焦点となります。患者の尊厳と安全を守るため、更なる取り組みが求められるでしょう。