唾液代謝物で判定する睡眠不良の新技術とその可能性
国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)の研究チームは、唾液に含まれる特定の代謝物を用いて慢性的な睡眠不良を非侵襲的に判定する技術を開発しました。この技術は、86.6%という高い確率で睡眠不良者と良好な睡眠者を見分ける能力を持っています。
研究の背景
現代社会では、私たちの生活は24時間体制が求められ、また高齢化が進む中で、睡眠の問題はより深刻さを増しています。成人の約5人に1人が睡眠に満足していないと言われ、その結果としてうつ病や生活習慣病のリスクが高まっています。しかし、慢性的な睡眠障害を正確に評価するのは非常に難しく、多くの場合、被検者の主観に依存した評価手法が中心となります。
この研究では、ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて完全に主観的な評価を避け、唾液を用いた客観的なデータを基にすることでこの問題を解決することを目指しています。
具体的な研究手法
まず、健康な被検者50名と睡眠に問題がある被検者50名の唾液を採取しました。その後、CE-FTMS(キャピラリー電気泳動-フーリエ変換型質量分析)によるメタボローム解析を通じて683種類の代謝物の濃度情報を収集しました。そこからランダムフォレスト解析を行い、重要な六つの代謝物を特定し、これを元に睡眠不良者を識別するためのモデルを作成しました。
この結果、PSQIでの判定と比べて、86.6%という高い正確さで睡眠状態を見抜くことができました。中には腸内や口腔内に由来する物質もあり、これらの細菌と睡眠の質の関連性も示唆されています。
期待される応用
この新技術の最大の特徴は、非侵襲的であるため、家庭や職場、高齢者施設で活用しやすい点です。唾液中の代謝物を測定できる簡易なデバイスや試薬キットの開発が進められれば、日常生活における睡眠の質を即座に把握することが可能となります。
将来的には、睡眠障害患者の診断や治療効果の判定に役立てられることが期待されています。また、この技術は学校や職場でも導入されることで、より多くの人々の睡眠管理に役立つでしょう。
研究の今後
研究チームは、この研究を進める中で、さらに詳細な評価を行うために、実際に睡眠障害に苦しむ患者を対象にした研究も計画しています。これにより、睡眠障害の診断や治療方法の確立に寄与できることを目指しています。
この成果は、2025年4月21日、英国のScientific Reportsに著名な研究結果として掲載される予定です。今後の研究が進めば、よりパーソナライズされた睡眠管理が実現し、日本全体の健康を支える重要な要素となることが期待されます。