はじめに
細胞は多細胞生物の基本的な構成要素であり、それぞれが相互に物質をやりとりすることでコミュニケーションを行っています。近年、細胞は直接つながることで情報や物質を交換する仕組みがあることが明らかになってきました。その一つがトンネルナノチューブ(TNT)と呼ばれる構造であり、細胞間で分子やオルガネラを輸送する重要な役割を果たしています。
TNTとその機能
TNTは細胞膜の延長として、異なる細胞間で連絡通路を形成しています。この構造は、大きな分子やオルガネラを移動させるための「トンネル」の役割を担い、細胞間での迅速かつ確実なコミュニケーションを可能にします。TNTは主に二つのタイプ、すなわちアクチンフィラメントを持つものと微小管を含むものがあり、後者は特に効率的な物質輸送を実現しています。しかし、微小管を持つTNTの形成メカニズムはこれまで不明でした。
新たな発見CCT4
東京都立大学の研究チームが、この謎を解く鍵となるタンパク質、CCT4を特定しました。CCT4は微小管の形成に寄与し、細胞がTNTを生成する過程で重要な役割を果たすことが示されました。具体的には、CCT4が過剰に発現した細胞は、特に微小管を含む太いTNTを多く構築することが確認されています。
研究方法
研究チームは、ライブイメージング技術を用いて、CCT4を発現させた細胞がナノチューブをどのように形成するかを観察しました。この方法により、TNTはペトリ皿の底面に接触せず、宙に浮いた状態で他の細胞を結びつける様子が確認されました。また、CCT4を含む細胞に近接した細胞でも、CCT4が観察され、TNTの特性を支持する結果が得られました。
微小管の役割
この研究では、CCT4が微小管の伸長に関与している可能性も示唆されています。顆粒状のチューブリンとCCT4が同時にTNT内を移動しており、微小管の先端にあるEB1との共局在も示されました。これにより、CCT4が微小管の形成を促進し、TNTの構造に大きな影響を与えていることがわかりました。
研究の重要性
TNTの機能は細胞のストレス応答や神経変性疾患、癌の発症に関与している可能性が指摘されています。例えば、病的なタンパク質が神経細胞からグリア細胞へと輸送され、分解を助けるケースも報告されています。ただし、逆に病変の拡大を招く可能性もあり、TNTがどのように運搬対象を選別し、輸送の方向を決定するかは未解明でした。今回の発見は、微小管を含むTNTの形成のメカニズムの理解へ一歩近づくことを意味します。
結論
CCT4の発見により、細胞間のコミュニケーションと相互作用の新たな理解が進みました。この研究は、今後の細胞生物学や医学の分野における新たな知見を提供する大きな一歩となるでしょう。細胞間のダイナミックな関係性を解明することで、疾患の理解や治療法の開発につながることが期待されます。